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ドラ息子
番犬にと屋敷で買い始めた仔犬が散歩の最中に脱走した。
生まれてこの方、甘やかされて育った慎太郎が獣の足に追い付ける筈もなく、すっかりその姿を見失った。
(見廻り散歩などと言わなければ良かったなぁ…)
トボトボと歩きながら家で待っているであろう両親への言い訳を考えた。
大店呉服店の嫡男として生まれた慎太郎はドラ息子と町では有名で、家業を継ぐ歳となった今でも何かと家を抜け出しては仕事もせずに遊び歩く放蕩ぶりである。
(…そうだ、犬は猟師に譲ったことにしよう。そうすれば辻褄が…)
一先ず言い訳を思い付き、シメシメと店の裏にある屋敷の門の前へ。
そこでは何やら門前で奉公人が騒いでおり、旅装束の娘が泥塗れで立っていた。
何事かと思った直後、娘は歓迎の様子で屋敷の中へ。
何とも不可思議な光景に首を傾げつつ、そろりそろりと近寄って閉まり掛けの門を覗き込んだ。
「慎太郎‼」
背後から振ってきた怒鳴り声にビクリと肩を揺らす。
振り返った瞬間、母から強烈な拳骨が振ってきた。
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