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ある秋晴れの晴天を仰ぎ、二人の男が綺麗に色づいた紅葉の木の下に茣蓙を敷いています。
一人は羽織を着て、茣蓙の上に座布団を置き、そこへすっと膝を折って正座をして、その隣に並んで座ったもう一人は太鼓の桴を手に取ると往来から人を呼ぼうと手持ち太鼓を叩きます。
トントンテンテテントントンテンテン。
その太鼓の音色に合わせるように、羽織を着た男は正座をしたまま手を前で揃えて深々と頭を下げると、今度は少し前かがみになってから両膝に両手を被せ何やら話を始めました。
「気が付けば季節も秋となりまして、もみじやなんかも赤や黄と、華やかに色を付け始めた頃合いです。
もみじと言えば紅葉ですが、そんな綺麗な紅葉を意中の美女を連れまして、ひとつ見に行ってみようかなんて足を運んでみますと、たまに木から剥がれた葉っぱなんかが美女の頭の上にぽつりと落ちてくることもこざいまして、
そこでそのもみじの葉っぱを手でちょいとつまんで、ほら、頭に、なんて笑顔で言ってみたりしますと、まるで紅葉のように頬を真っ赤に染めた意中の美女が、あら嫌だわと恥じ入りまして、ついには黙って紅葉も見ずに俯いたものなら、
これや良しと、そのまま二人で秋の夜長へともつれこめでもすれば、ああ、これがどんなにありがてぇことかと、そう思うところではございますが、
昔から、頭に葉っぱを乗せてドロンと美女に化ける獣もおりますもので、易々と美女は家に上げないというのが、私の知るところの古くから伝わる習わしでございます。
そんな化ける獣と言えば、思いつくのが狸や狐、この両種は犬でも猿でもないのに犬猿の仲だなんて言われることもありますので、山の中ではいったいどんな大一番が繰り広げられているのか、それは私ら人間には知る由もない話ではありますが、
では、この狸と狐、一つどちらが優れているかと比べてみたものなら、その軍配は、やはり狐へと上がることでございましょう」
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