化け落語

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 「なんだって、ああして小銭を投げるんだぁ?(ぜに)ってのは、団子と引き換えるもんじゃねぇのかい?」  山から下りて来たばかりの子狸なもんですから、商売や銭のことなんてものはてんでわかりゃしません。  先刻に町をぶらぶらとしていた頃に、人が団子屋で団子を買っているところでも見掛けて銭をそんなもんぐらいに思ったんでしょうが、  子狸は籠にチャリンチャリンと投げ入れられていくその小銭を見まして、  「へへ、あの芸を真似してやれば、おいらもあの銭ってのをたくさんもらえるはずだ。そうすりゃあ、団子といくらでも換えられるじゃあねぇか」  と、そんな悪知恵ばかりは効く狸ですから、持ち前の化けっぷりと珍妙さであっという間に見世物の芸を習得せしめて、子狸はなんと日銭までしっかり稼いじまうようになります。  「いやー、今日も団子が美味い。この芸があればおいらはずっと団子を食ってられる。人間ってのはなんとも容易いもんだなぁ」  そんな風にして、子狸が何やら生意気なことを吹かせていますと、往来に居た町人たちが何だか蟻のようにぞろぞろと入ってく不思議な建物を見つけます。  「お、なんだいありゃ?人が吸い込まれてくみてぇだ、それに、旗に大きく何やら書かれているようだが、えーと、なになに、寄席(よせ)?なんだ寄席ってのは、何かの食い物屋かい?」  まあ、こいつは狸ですから、思いつくのはそんなもんなんでしょう。  しかし、気になっては居ても立っても居られないそんな性分の子狸なもんですから、その吸い込まれていくような人の中に紛れて自分も建物の中へと入って行みると、どういう訳だか銭を払えと言われたもんで、言われるがまま子狸は訳もわからず持っていた巾着袋から幾らか払います。  「ん?なんだ、どういうことだい?銭は払ったってのに団子の一つも出てきやしない。ここはいったい何を食う場所だ?ああ、嫌だ嫌だ、辺りは薄暗いわ人はわんさかいるわで、おいらからしちゃあ悪書場みてぇな所だなぁ、たくっ、こんなとこからはさっさと出ちまおう」  そうして、子狸はそこから出て行こうとするんですが、押せよ押せよと向こうからは人の波が来まして、その人の波にあっぷあっぷと溺れそうになるもんですから、子狸はそこでとうとう決心しまして、ついに人の波にえいやと身を任せてみたところ、  あれよあれよという間に子狸は座りの悪い席へと腰をかけさせられまして、これから始まるのはあの寄席なわけですから、そこで一番太鼓、二番太鼓と音が鳴り、高座(舞台)の上へと人が出ます。
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