化け落語

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 「いいか?こうだ、トントンテンテテントントンテンテン、ほら、やってみろ」  「えぇ?こうですか?トントンテンテンテントントンテント」  「違う違う、トントンテンテテントントンテンテン、だ」  「こうですか?トントテンテントトトンテントン」  「下手くそ!こうだ、こう、トントンテンテテントントンテンテン」  そうして、狐は狸に木の枝で太鼓の拍子を教えますが、狸だというのにこれが一向に上手くならないもんですから、狸でもそんな自分に段々と嫌気が差してきまして、  「ああ、もうやめましょうよぉ!無理ですよぉ!いきなり太鼓を叩くなんてぇ!」  「そう言うな、やっていればいつかは上手くなる。万事そういうもんだ」  「そんなぁ!殺生なぁ!」  「お前だって、初めから上手く人に化けれたわけじゃないだろう?幾度も人に化けようと、それこそ血の滲むような鍛錬を重ねて、お前は子狸ながらも、ついには俺にも勝るとも劣らない、その見事な化けっぷりを身に着けた。お前は大した奴だ」  「え?そ、そうですかぁ?いやぁ、そうですかねぇ?えっへっへぇ」  「ああ、俺でなければ見逃していただろう、その見事な化けっぷり、果たしてそれがどこまで通じるのか、お前はそれを試してみようとは思わないのか?」  元はと言えば、仲間内で人に化けるのが上手い上手いと煽てられ、どうやって人を化かすのかも知らずに山から下りてきちまったそんな未熟な子狸ですから、その狐の言葉にもつい踊らされまして、  「太鼓なんてもの、生まれて此の方、叩いたことはありませんが、この腹づつみでもよろしけりゃ、いくらでも叩いてみせやしょう!」  と、子狸は大きな腹を膨らませて、ポン!と一つ叩きます。  「いやいや、そんなことをすれば、お前が狸だとすぐばれるだろうが」  「そうですかぁ?じゃあ、どうしやしょう?おいらは太鼓なんて叩けませんし」  「そうだな、狸のくせに太鼓も叩けないとなれば、これは、もう叩ける相手に習うしかないだろう」  「習う?習うと言いますと?」  「お前はそんな事もわからんのか?人に頭を下げてだな、教えてくださいと、こう言うんだ。その際は、いくらか銭はかかるだろうが」  「そんな!太鼓を習うってのにもこの銭が必要だなんて、そんなことをしたらですよ、おいらは、団子が食えなくなるじゃあないですか!」  と、相手は狐ですから、子狸はもう形振りも構わず元の狸の姿に戻りまして、毛という毛を逆立てながらそうして怒ります。  そこで、カッカッカッ!と嘲笑う狐はさすがと言いましょうか、狐はそんな狸を見てこう言います。  「やはり狸は狸か!化けるばかりで、成ることを知らない」ーー。  その話の終わりを合図にして、手持ち太鼓の軽やかな音色が色付いた紅葉の木を駆け上っていきます。  トントンテンテテントントンテンテン。  茣蓙(ござ)の上に置いた座布団に正座をしていた羽織の男が、目の前へと集まっていた見物人に向かい深々と頭を下げると、  見物人たちは見事見事と口を揃えて茣蓙の前に置かれた籠に小銭を次々に投げ入れて行きます。  その具合はまさに、雨やあられの大賑わいと相成りました。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加