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凜人に引き取られたベロフだったが、ジャックラッセル・テリア特有の活発さは影を潜め、本来なら大型犬並に必要な運動にも興味を示さなかった。買ってきたおもちゃなど見向きもしない。
自分を新たな相棒と認めてくれなくてもかまわないが、せめて本来の好奇心や運動能力を取り戻してほしかった。
しばらく従事していないとはいえベロフは爆発物探知犬だ。悩んだ末に凜人は、二年前まで使っていた訓練用のおもちゃを探しに物置小屋に向かった。ベロフは面倒くさそうに少し後ろからついてくる。
物置小屋を開けた瞬間、ベロフの表情が変わり瞳に生気が宿った。鼻を上げ広がる空気を嗅ぎ取ると物置小屋に突進、数秒後には隅に置かれたコンテナボックスの横に伏せ、凜人を見つめる。爆発物を見つけた時に知らせる行動だ。コンテナボックスの中に入れられたおもちゃに微かに残った、二年前の火薬の臭気を嗅ぎ取ったベロフ。初めて見せる得意げな表情に、凜人は反射的に駆け寄った。
「オッケーベロフ。偉いぞ!」
目線を合わせ首元をなでると、嬉しそうに凜人の顔をなめ回す。ベロフが望んでいるのはただ一つ、ハンドラーに褒められることだったのだ。
見違えるように活き活きとしたベロフを目の当たりにして、凜人は再びハンドラーへ戻ることを決意した。
由貴の助けも借り凜人自身とベロフの訓練を開始。元々海外で従事していたので能力的には問題ないはずだが、国内の施設で警備業務に従事するには、日本の社団法人の試験に合格する必要があった。
訓練を再開、一年近く現場から遠ざかっていたベロフの体力と集中力が戻り、三日間に及ぶ認定試験が終了したのが今日の午後。
最終試験で臭気をつけた模擬爆発物を荷物の山から一瞬で嗅ぎ分け、凜人を喜ばせた直後。事前にそれを運んだ係員を臭気から特定し組み伏せるという、前代未聞の失態を演じて不合格となった。
試験会場から自宅に戻る途中に寄ったパーキングエリア。車を止めると、自分の失態を自覚し拗ねた目のベロフに慰めの声をかけ、ハーネスを繋ぎケージから出してやった。
ペットシーツで用を足したベロフに水を飲ませ、外の空気を吸わせていたその時。ベロフが鼻を持ち上げ、凜人にサインを送る。爆発物の臭気を嗅ぎ取ったのだ。
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