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ライブ当日。会場となる遊園地の中央広場では、仮設ステージの準備が終わり音響や照明などのテストが行われていた。客席の収容人数は三百人、ファンクラブ会員の中から抽選で選ばれた二百九十人と、招待された関係者が十人だ。
凜人はベロフと共に会場周辺の点検を終えると、出水と最終確認に入る。立岡と名乗る広報部長も同席していた。
「私とベロフは、開場時間まで周辺の警戒に当たります。その後は入場ゲートで手荷物検査に立ち会い、ベロフが反応したら付近で待機している警察官に通報ということでよろしいでしょうか」
「結構です。ライブが始まったら監視カメラのあるバックステージで、終了間近になったら再び観客席付近で待機して下さい」
「今日は当社の役員のほか、レーベルも招待しているんだ。くれぐれも粗相のないようにな。その犬もだ」
割り込んできた立岡が、ケージのベロフを一瞥する。視線を感じたベロフが、鼻にしわを寄せ牙を剥きだした。
「肝に銘じておきます」
インカムを身につけ席を立つと、入れ違いに梢が入ってきた。漆黒のショートヘア、つり目気味の大きな瞳。銀色のコードに付けられたカラフルな石が光るネックレスは、ハンドメイドのようだ。あどけない顔と、見つめる者を捉えて放さない強い瞳は、肉食の蝶を連想させた。
ベロフを見つけた梢が一直線に近づいてくる。にっこり笑い、しゃがみこんで拳の匂いを嗅がせる梢を、凜人以外に懐かないベロフが珍しく尻尾を振って歓迎した。
「ベロフ、頼んだよ」
凜人にもペコリとお辞儀をすると、梢は出水の待つテーブルへと向かった。
開場二十分前。周囲の点検を終えライブ会場に戻った時、一人の若者にベロフが反応した。鼻を持ち上げ臭気を嗅ぎ取ると、凜人をぐいぐい引っ張り若者に向かう。小さく一声吠えると、足下に伏せた。
「入場口裏で不審者発見。声かけします」
インカムで出水に連絡を入れると、凜人は緊張を隠して若者に声をかけた。
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