104人が本棚に入れています
本棚に追加
セカンドコンタクト
「失礼いたします。少しよろしいでしょうか?」
ベロフに待てを命じ、仮設ステージ裏から出てきた若者に声をかけた。年齢に似合わない高価なブランド品を身に着けている。
「何?」
「ライブの警備をしている者ですが……」
「チケットならあるよ」
遮るように招待客用のチケットをバッグから取り出した。
「恐れ入ります。お客様全員に手荷物検査をお願いしているのですが、よろしいでしょうか?」
「それ強制?」
「いえ……」
「この犬ムカつくんだけど」
爬虫類を思わせる目でベロフを睨む。
「何をやっているんだ!」
無線を受けて小走りでやってきた立岡と出水が、若者を見て顔色を変えた。
「申し訳ございません、修哉さん!」
立岡が土下座をしそうな勢いで頭を下げた。
「こいつ誰?」
修哉と呼ばれた若者が横柄に言った。
「今回から警備を委託している業者でして」
「そ。席、どこ?」
「こちらへどうぞ」
凜人が止める間もなく、立岡が修哉を案内していった。
「あいつクビにして」
会場に向かいながら、修哉が立岡に命令するのが聞こえる。
「彼は何者ですか?」
「うちの専務の息子さん。梢の大ファンなの。仕方ない、あなたは予定通り配置について下さい」
頷いた凜人は会場の警備に戻った。
その後は滞りなく所持品検査も終わり、やがて開演の時間が近づいた。
バックステージのカメラで会場を監視する凜人の横に、出水が並ぶ。
「梢はね、悩みや葛藤を抱えてもがく若者の代弁者。少なくともファンの子はそう思っているわ」
梢を見守る出水の眼差しは厳しく、そして優しい。
定刻、照明が消える。一瞬後、大音響と共にライブが始まった。
最初のコメントを投稿しよう!