ターゲット

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ターゲット

 爆風と共に、埃と建築資材が降りかかる。 耳鳴りが止まらない。待機していた警察官が駆けつける中、凜人は気持ちの悪い違和感を感じていた。  すぐに爆発しなかった、ベーシストを模した縫いぐるみ。ベロフと自分を梢から引き離す目的か?爆弾がベーシストを模した縫いぐるみだったのは偶然か。梢、胸元で光るハンドメイドのネックレス。ベーシスト、ベース……。 「クソ!」  一つの可能性に辿り着き、凜人は自分を罵った。ターゲットは梢ではない。 「ベロフ、修哉(クソガキ)を探せ!」  一声吠えたベロフが鼻を持ち上げ、空気を嗅ぎ取り走り出す。  ベロフを追いながら出水に無線を入れるが、一向に応答しない。  修哉が会場裏手から出てきたのは、おそらく発電機に仕掛けをしていたからだろう。暗闇に紛れて爆弾を投げつけ、自分は安全圏に逃げるつもりだ。そして改めて真のターゲットを狙うはず。 『無事なの?今どこにいるの?』  ようやく出水から無線が入った。 「修哉はどこに逃げたかわかるか?」 「多分VIP用の駐車場。それより……」 「俺の質問に正直に答えろ!梢はベースの奴と付き合っていないか?」 「どうしてそれを……」  出水が口ごもる。当たりだ。 「もう一つ、パーキングエリアでの騒ぎの時、仕掛けられた爆弾の上の席にいたのは誰だ?」 「ベースの子よ」 「やっぱりな。梢がいつも身に着けているネックレスのコード、ベースの弦だろう?二人の絆と思われても不思議じゃない。そして爆弾はベーシストの縫いぐるみ。“梢を永遠に僕だけの歌姫にする”っていうのは、梢を殺すんじゃない。付き合っているベーシストを殺すって意味だ!すぐにベーシストの安全を確保しろ!」 「わかった!それと、私の質問にも答えて!あなたにケガは無いの?」 「大丈夫だ。それより修哉の車を教えてくれ」  VIP用の駐車場は目と鼻の先だった。幸い、爆発騒ぎで駐車場は閉鎖されているようだ。上手くいけば、修哉を押さえられる。 「白のベンツSLよ!」  全力疾走で視界が狭まる寸前、VIP用の駐車場に着いた。フェンスをベロフと共に飛び越える。白のベンツSL……、見つけた。五台先だ。 「ベロフ、Subdue(制圧しろ)!」  ベンツに乗り込む寸前の修哉に、ベロフが飛びかかる。 「離せ!このくそ犬!」  追いついた凜人が引きずり倒すと同時に、修哉がバッグに手を入れリモコンを取り出す。ベロフがリモコンを取り上げる寸前、修哉はスイッチを押した。同時に、数百メートル離れたスタッフ用駐車場で、爆発音と共に火柱が上がる。 「ざまあみろ!これで梢は僕のものだ!」  警察官や野次馬が集まる中、修哉の高笑いが響いた。    
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