104人が本棚に入れています
本棚に追加
ターゲット
爆風と共に、埃と建築資材が降りかかる。
耳鳴りが止まらない。待機していた警察官が駆けつける中、凜人は気持ちの悪い違和感を感じていた。
すぐに爆発しなかった、ベーシストを模した縫いぐるみ。ベロフと自分を梢から引き離す目的か?爆弾がベーシストを模した縫いぐるみだったのは偶然か。梢、胸元で光るハンドメイドのネックレス。ベーシスト、ベース……。
「クソ!」
一つの可能性に辿り着き、凜人は自分を罵った。ターゲットは梢ではない。
「ベロフ、修哉を探せ!」
一声吠えたベロフが鼻を持ち上げ、空気を嗅ぎ取り走り出す。
ベロフを追いながら出水に無線を入れるが、一向に応答しない。
修哉が会場裏手から出てきたのは、おそらく発電機に仕掛けをしていたからだろう。暗闇に紛れて爆弾を投げつけ、自分は安全圏に逃げるつもりだ。そして改めて真のターゲットを狙うはず。
『無事なの?今どこにいるの?』
ようやく出水から無線が入った。
「修哉はどこに逃げたかわかるか?」
「多分VIP用の駐車場。それより……」
「俺の質問に正直に答えろ!梢はベースの奴と付き合っていないか?」
「どうしてそれを……」
出水が口ごもる。当たりだ。
「もう一つ、パーキングエリアでの騒ぎの時、仕掛けられた爆弾の上の席にいたのは誰だ?」
「ベースの子よ」
「やっぱりな。梢がいつも身に着けているネックレスのコード、ベースの弦だろう?二人の絆と思われても不思議じゃない。そして爆弾はベーシストの縫いぐるみ。“梢を永遠に僕だけの歌姫にする”っていうのは、梢を殺すんじゃない。付き合っているベーシストを殺すって意味だ!すぐにベーシストの安全を確保しろ!」
「わかった!それと、私の質問にも答えて!あなたにケガは無いの?」
「大丈夫だ。それより修哉の車を教えてくれ」
VIP用の駐車場は目と鼻の先だった。幸い、爆発騒ぎで駐車場は閉鎖されているようだ。上手くいけば、修哉を押さえられる。
「白のベンツSLよ!」
全力疾走で視界が狭まる寸前、VIP用の駐車場に着いた。フェンスをベロフと共に飛び越える。白のベンツSL……、見つけた。五台先だ。
「ベロフ、Subdue!」
ベンツに乗り込む寸前の修哉に、ベロフが飛びかかる。
「離せ!このくそ犬!」
追いついた凜人が引きずり倒すと同時に、修哉がバッグに手を入れリモコンを取り出す。ベロフがリモコンを取り上げる寸前、修哉はスイッチを押した。同時に、数百メートル離れたスタッフ用駐車場で、爆発音と共に火柱が上がる。
「ざまあみろ!これで梢は僕のものだ!」
警察官や野次馬が集まる中、修哉の高笑いが響いた。
最初のコメントを投稿しよう!