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再出発
遊園地での事件から二週間後、凜人はベロフと共に出水を訪ねていた。今日は梢も同席している。
「本当にありがとうございました。おかげで一人の負傷者も出さずに済みました」
出水と梢が頭を下げる。
「いえ、私の仕事ですから。それより、警察やマスコミは大丈夫ですか?」
事件直後は新進気鋭の歌姫を巡る報道が加熱していたが、徐々に下火になってきている。
「平気です。またイチから始めなきゃだから、出水さんには迷惑かけてるけど」
梢が申し訳なさそうに言って、出水を見た。瞳の強さは失われていない。凜人の想像以上に、小柄な歌姫の心は強いようだ。
「実際のところ、心配こそすれ責めるようなファンはごく一部です。こういうことも含めて、梢は等身大の歌姫なんですよ」
出水が優しく梢を抱きしめ、続けた。
「ご相談ですが、この後も梢の警護を担当していただけますか?」
「もちろんです。ベロフも梢さんには懐いているようですし」
凜人と梢を交互に見て、ベロフが尻尾を振った。
「そろそろ私にも懐いてくれないかしら」
仕方ないと言わんばかりに、ベロフは出水のつま先に顎を乗せた。
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