日永と恭介

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2人とも気持ちが盛り上がりすぎて一回で済むはずがなかった。一度抜いて新しいゴムをつけると、今度はスムーズに潜り込んできた。こんなことも簡単に受け入れ始めた自分が怖くなるけど、日永と一緒だからいいか。 獣のポーズを取らされ後ろからも挿入された。 これはさらに奥深くに入ってくるから少しだけ怖かった。ふたりで夢中になって身体を繋げあって、快楽の種を探していく。 「あ、ああっ」 「恭介さん、好き。大好きです」 いつの間にか恐怖も痛みもどこかに消え去って気持ちよさだけが全身を痺れさせた。 「恭介さんの身体がおれの形になって行ってるのわかりますか? 健気に覚えていってる」 「んっ、う、んっ、わかる」 もう拒む場所なんかなくなって、ただ与えられる刺激を従順に受け取って。それだけじゃなくさらに倍にして返していく。 朝が来るまで必死にくっつきあって、目が覚めた時には陽がだいぶ高く昇っていた。 喘ぎすぎて喉も痛い。 身体の節々が軋んだ音をたてて、起き上がろうとしたら力が入らなくて笑えた。 「今日が休みで良かったです」 先に起きていた日永に手を貸してもらいながら上体を起こす。 「蒼さんも?」 「です。今日は一日中お世話をしますから何でも言ってください」 「大丈夫って言いたいけどこれは無理だな。甘えることにするよ」 「ぜひ!」 普段なら無理をしてでも大丈夫だからと余裕の笑みを浮かべて見せるところだけど、日永相手にその必要はない。それがすごく楽ちんで恭介は目元を緩めた。 「機嫌が良さそうですね」 「そうだね。なんか今まで気負っていたものが解けてなくなって心が軽いんだ。体は疲れてるけど気持ちいいって言うか、気分がいい」 きっと日永ならどんな恭介でも受け入れてくれるし、そんなところも好きだって言ってくれるだろう。それは恭介も一緒だ。 「日永さんさ、デイジーでいることをやめないでね」 恋人が男性でドラァグクイーンでちょっと他とは違うけど。そんな日永を丸ごと好きだし受け入れる。 というかデイジーあっての日永と言うか。 「あの、」と日永は少しだけ迷うように口を開いた。 「前から聞きたかったんですけど、恭介さんって自分よりデイジーの方が好きですか?」 突然の質問に首を傾げた。どういう意味だ? 「いえ、あの、自分に嫉妬と言いますか、恭介さん……デイジーには自分の気持ちを伝えてくれるので。自分は全然頼りないというかヘタレだってよくバカにされるんですけど、もしかしてデイジーの方が信頼されているのかなって」 モゴモゴと口の中で誤魔化しながらこぼす日永に恭介は「そうかもね」と答えた。 「もしかしたらデイジーの方を先に好きになったかも?」 「えっ!!!」 まあ、どちらもグルグルと螺旋を描くように気持ちが絡まれて行って、気がついたら両方とも愛おしくなっていたんだけど。最初のキッカケはデイジーだったのかもしれない。 強くてかっこよくて芯のある凛々しさに憧れて。 でも仕事をする日永にも同じものをみていいなと思った。 「どっちか覚えてないや」 「それ、すごく大事な事だと思うんですけど」 「そうかな。どっちみちあなたなんだし」 「ですが……なんだろうこのモヤモヤ」 最初の出会いこそ最悪だった。 おめでたい席で人にのしかかってきて貞操を奪おうとして来て。あの頃はこんな奴とどうにかなるなんて考えもしなかった。 人生って何があるかわかんなくて面白いな。 きっと日永とデイジーと一緒にいたらこれからも想像がつかない日々が待っているんだろう。 だけどそれもいいと思う。 がちがちの鎧を着こんだ綺麗な日々よりは。 「それより喉が渇いた。あとお腹もすきました」 夜中いっぱい激しい運動をした体はさっきからエンプティーマークが点灯している。 「あっ、そうですよね! 何がいいですか。冷蔵庫見てきます」 日永はビビビっと姿勢を正すとすぐに起き上がろうとした。だけど、何も纏わない筋肉質な腰に腕を絡めて「待って」と止めた。 「おはようのキスは?」 日永は「うぐっ」っと変な声を上げてのけぞった。鼻を抑えて「破壊力」と呟く。相変わらずリアクションが変だ。 「無し?」 「じゃないです。全然、たくさんあります」 安心する広い胸に抱きしめられてほっと息を吐いた。いつの間にこんなに落ち着く場所になっていたんだろう。日永にとってもそうであればいい。 目を閉じて優しい口づけにとろけていく。角度を変えながら何度も繰り返されるキスに愛おしさがこみあげてきて、背中に回した腕に力を込めた。 恭介の愛情も伝わればいいなと願いを込めて。 「離れられなくなります」 掠れた声を出されて「うん」と答えた。 「俺も」 せっかくの二人の休日なんだ。 普段しないような甘えたことくらい言わせてくれ。 「お腹もすいたけどまだそばにいて欲しいっていったらどうする?」 「それは難しい問題ですね。おんぶしながら料理するとか?」 「ははっ、結構重いよ?」 「恭介さんくらい軽く背負えます。乗りますか?」 日永なら本気でしそうだから小さく首を横に振った。 「うそ」 「じゃないことくらいわかります。じゃあ5分待ってください、作って運んでくるので。そしたらここでまたくっついててもいいですか?」 コクリと頷くと日永は更に鼻息を荒くして「壊れる」と呟いた。 「恭介さんの可愛いメーター振り切りすぎです」 「じゃあ、早く戻ってこい」 そう指令を出してばさっと掛け布団に潜り込んだ。 自分で言っときながらめちゃくちゃ恥ずかしんだが。でもそれを日永は喜びとして受け取ってくれるらしい。 なんだかんだ、俺たちの相性っていいのかもしれない。 日永は「はい!」っと景気のいい返事をするとすぐにキッチンへと姿を消した。あれだけ動いておきながら体力オバケかよ。 料理をする音に紛れて鼻歌まで聞こえてきた。それは桃色に色づくような華やかな空気で、布団に包まりながら恭介はうっとりと目を閉じた。 こういうのを幸せって言うんだろうな。 そう思いながら。
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