手鏡

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手鏡

「旭、それ最近多いけど、自覚してやってんのか?」 「はい?」 居間で、少しぼんやりしていた。最近予定が立て込んでて、忙しない。あまり休む間もなく、寝不足だ。突然叔父さんに話しかけられて、気の抜けた声しか返せない。叔父さんは、僕の背後にあるドアに寄りかかっている。青地に、真っ白な何本もの白い手の柄のシャツ。綺麗だけど、気味が悪い。左耳には、変わらず大きな朱い金魚が揺れている。 「それ、って何ですか?」 「手のひら、じっと見てんの」 叔父さんの目が、細くなる。真剣な目。 「手のひら?」 僕は自分の手を見る。火傷で包帯を巻いた、手のひら。じっとなんて、見ていただろうか。 「包帯が取れそうとか、痛むとか?」 叔父さんに聞かれ、僕は首を横に振る。 「特に異常は無いです。そんなに見てますか?僕」 手のひら、手の甲を、僕はくるりと見やる。注視するような何かも、無い。 「見てるぞ。自覚が無いなら……まあ、分かった」 「ええ?」 僕のところまで歩いて来ると、叔父さんはパッと扇子を開いた。いつの間に持っていたのだろうか。真っ黒な背景を、蛍が数匹飛んでいる。それで、僕の頭の後ろの方を大きく仰いだ。 「ほいよ」 「えっ、」 ふわりと涼しい風が起きて、急に視界が明るくなった。 「あれ?明るい」 最近は少し、暗く感じていたのに。天井の照明を見上げてたら、叔父さんが笑い出す。 「疲れてたんだろ。そこに、どっかで死の気配に当てられたな」 「死の気配って」 「今のでどっか行ったから、問題ない問題ない」 そんな虫みたいな。 「手鏡現象みてーに手のひら見てるから、さ。やってみるもんだな」 叔父さんは、パチンと小気味よく扇子を閉じる。よく分からないが、とりあえず。 「……ありがとうございます?」 「何で疑問形なんだよ」 愉快そうに、叔父さんは笑った。
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