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少し焦げた野菜炒めと、水気の多い米を口に入れる。失われた時間が少しだけ取り戻された気がした。
「どうだ?」と恐る恐る訊ねる父親に理苑は「塩っぱい」と泣きながら食べ続けた。父親は「ごめんなあ」と繰り返し言った。
男は本当に変わった。声を荒らげることも、拳を振るうこともなかった。
憑き物が落ちたかのような、穏やかな父の顔をしていた。
一体どうしてこんなにも変わったのか、莉苑にはまるで想像が出来なかったが、それだけの何かがあったのだろうか。
「ゆっくり寝なさい。明日は制服を買いに行こうな」
父親はそう言って、曇り硝子の扉を閉めた。
緊張と安心でかなり疲弊していたのか、理苑は気を失うように意識を手放した。
父親と暮らすようになってから二週間が経った。
幼少期の地獄は夢だったのではないだろうかと思えるほど、平凡な日々が続いた。
「もうすぐ入学式だなぁ」
男二人で昼食をつつきながら父親が言った。
「うん」
「今日あたり、制服と教科書が届くだろうな」
「本当?」
二人の会話にぎこちなさは殆どなく、何処でもいる親子そのものだ。
「辻森さん、お届け物でーす」
不意に玄関のドアがノックされた。
「来たんじゃないか」
促されるまま荷物を受け取る。送り元は近隣の公立学校だ。
開けてみると、やはり制服と教科書が一揃入っていた。
「そうか、今はブレザーなんだな」
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