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父親は懐かしむように覗き込んでそう言った。
「今は?」
「昔は父さんも同じ学校に通っていたんだよ。その時は学ランだったんだ。女子はセーラーでね、あの時の有希子は可愛かったなぁ」
不意に理苑は心臓が嫌な音を立てるのを感じた。
有希子――それは、理苑の母親の名前だった。
「そうだ、懐かしいなぁ、少し着て見せてくれ」
父親は遠い目をして笑っていた。
何を、思い出している?
制服のワイシャツに袖を通す。ザラリとした感触が纒わり付いた。
「父さんと母さんは同じ中学なんだ」
スラックスを履いて、ホックを留める。再びザラリとした感触。
「母さんはその頃から美人でねぇ」
ザラリ。
「そう、理苑は有希子そっくりだなぁ」
男の視線が理苑を捉え、渇いた指先が頬を撫でた。
空気が喉に張り付き、上手く息が吸えない。
それでも莉苑はこの男から目を逸らすことが出来なかった。
男の顔が近付き、異臭が鼻を突いた。
この男は改心したわけでも、人が変わったわけでもなかった。
不機嫌に当たり散らす暴力性と、穏やかで小心者な内面と、父親の姿は何れも本来の姿だった。
莉苑は耐えるしかなかった。
裂けるような痛みと圧迫感に吐き気がしても、声を押し殺し、泣きもせず、ただ時間が過ぎるのを願った。逆らえば更なる暴力が襲って来るのを、既に知っていた。
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