2.それが自分の価値なのだと識る

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 父親の皮を被った男は、莉苑の未発達の身体を夜な夜な嘖むようになった。 「お前はあの女と違って、中に出しても子供もデキないし最高だなぁ」  そう言って男は下卑た薄ら笑いを浮かべる。この男に「父親」と呼べるものは無かった。再会した時のあの人の親然とした姿は幻か何かだったのだろう。  中学に上がっても、慢性的な寝不足で休みがちになり、既に出来上がったクラスの中で馴染むことなど出来なかった。  必然的に莉苑の世界は殆ど父親と二人きりで完成されていた。  莉苑は生きるために父親に媚び売るようになった。そうすれば殴られることも、食事を抜かれることもない。  莉苑が積極的に悦ぶと、男は嬉しそうな顔をした。莉苑の心はより乾いていくだけだったが、ぶたれるよりかましだと思った。    莉苑が中学三年になる頃には、もう学校には全く顔を出さなくなった。  初めのうちは定期的にかかってきていた電話や、家庭訪問も今ではぱったりなくなっている。毎度父親が追い払ったからだった。  触らぬ神に祟りなし。学校側も崩壊してしまった家庭の――否、もはや家庭とすら呼べないような家の事情には首を突っ込みたくはないのだろう。  莉苑は生気なく眼前の男を見上げ、涸れたような笑みを浮かべた。 「隆弘(たかひろ)さん……」  父と呼ぶことも許されず、ただ性を搾取されるだけの人形だった。
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