2.それが自分の価値なのだと識る

9/21
前へ
/29ページ
次へ
 (あばら)は浮き出て、肌や髪は軋み、爪は栄養失調でボロボロだった。  それでも莉苑という少年には何処か悲愴的な美しさがあり、一層男の情欲を掻き立てた。 「有希子(ゆきこ)……っ、有希子ォ……赦してくれぇ」  元父親は、泣きそうな声で懇願しながら情けなく腰を振っていた。 「いいよ……、ッ、赦してあげる……」  この男には莉苑のことなど見えていないのだろう。自分を通して、死んだ母を見ているのだと莉苑は思った。 「有希子……ッ、有希子、有希子有希子有希子ッ!」  幻ばかりで継ぎ接ぎされた世界の中で生きる男に憐れみすら覚える。  男は叫びながら胎の中で絶頂した。そして、息を吐くと震え、くずおれた。  激しい虚無感が莉苑の中で渦巻いていた。  この家を出よう。  シワが寄れ、垢のこびり付いたワイシャツを羽織り、適当に下着とズボンを履く。  それから、男の財布から札を全部抜き取った。一万円札が二枚と千円札が四枚。小銭は嵩張るので残した。  それらをズボンのポケットにしまい込み、莉苑は玄関に向かった。  家を出る時に男の方を見たが、足しか見えない男が動く様子は全くなかった。  莉苑はとりあえず駅に向かうことにした。  まだ施設にいた頃、おつかいで何度か行ったことがある。その記憶ももう朧となってしまったが、標識を辿り、何とか歩いた。  ここからどうしたら良いのか。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加