2.それが自分の価値なのだと識る

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 莉苑が吐き出すように言うと、ユウは少し驚いたような顔をして、笑みを深めた。 「じゃあボク達同じだね」  莉苑はその時ここに来て初めて、背筋にゾッとする何かを感じた。 「同じ……?」  ユウは莉苑を見つめながら細い指を絡めた。 「そうだよ、だから分かるんだ。本当はこんな事したくない、気持ち悪い。でも何にも考えなければ終わるから、耐えていれば大丈夫だからって、違う?」  莉苑の頭にあの男の顔が過ぎった。 「でもね、ここではそうやってお金をもらう。お金を見てると嫌なこと全部忘れられるんだ。それでももし、しんどかったらパキッちゃえばいい」  唄うようにユウは穏やかに声を紡ぐ。その声はどろりと重たく生暖かく莉苑に絡み付いた。  莉苑はそれを払うことが出来なかった。ユウの指や身体は細くて、力を込めれば莉苑でも押し退けるのはさほど難しくはないだろう。それでもユウのどこか狂気を孕んだ眼が、莉苑を引き付けて離すまいと鈍く光ってる。  莉苑は生唾を飲んだ。と、同時に着信音が鳴った。ユウのポッケの中だ。  ユウは手を解いて、話しながら外へ行ってしまった。  莉苑は膝を抱え、先程のユウの言葉を頭の中で反芻した。  父親から逃げることが出来ず、受け入れることでどうにか生き延びてきた莉苑。  家を出て自らを売り、日々を凌ぎながら生き抜いているユウ。
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