2.それが自分の価値なのだと識る

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 間借りしている部屋に戻った直後、そうモカが声を掛けてきたので、莉苑はしどろもどろしながら小さくありがとうとだけ言った。 「で?いくら貰えたの?」  直球な問いかけに思わず面食らって顔を上げると、モカは申し訳なさそうに(まなじり)を下げて言った。 「ここね、お金を稼いだ子はリツさんに面倒代を支払わないといけないんだよね」  なるほど、ここでの生活もそういったルールがあるのだ。学校でも施設でも、生活上のルールはどこにだってある。  だが、渡したくない。何故かそう思って莉苑は押し黙った。これを渡してしまったら、自分のやりたいことも見つけられないまま、ようやく手にした僅かな灯火を失ってしまう気がした。 「全部ってわけじゃないからさ、とりあえずお願い!じゃないとモカが怒られるんだって!」  モカが焦れたように語気を強めた。体を小刻みに上下に揺らしながら、掌を何度も差し出す。  莉苑は意固地になって身体を丸め、モカから背を向けた。傍から見ると幼児の駄々のようだったが、莉苑にとっては真剣だった。  モカがイライラするほど、莉苑は拒絶の色を示す。  だが、モカはモカでこの状況に手をこまねいていた。この街でのルールは絶対だった。  人脈が広くこの街での暮らしが長いモカは、同世代グループの中でまとめ役の一端を担っていた。
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