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理苑は倒れた少女に背を向け、その場を去ることにした。
運が良ければ、グループのリーダー格の子や、特に親しくしている子が道脇に寝かせ、薄い毛布や上着を掛けるなりしてくれるだろう。
悪ければ、そのままコンクリートに体温を奪われ、翌日この街から人が一人ひっそりと消えるだけだ。
既に少女に対する彼の興味は失われていた。そこに罪悪感もない。
広場を抜けて脇道に逸れると、白昼夢のようなネオン街から一転、薄ぼんやりした街灯がポツポツあるだけの鬱屈とした場所に変わり、人もまばらである。
だが、ここにいる人間の半数以上の目的は一つだ。
もう少し歩けば区立公園があり、周囲がやや明るくなる。
そこには若い男女が20人程、公園の外にぐるりと並んでいる。
傍から見れば、異様な光景なのだろう。
時々、四、五十代の男がやって来て、並んでいる若者に声をかけてはホテル街へ消えていく。
理苑も彼らと同じように、適当な場所で時間を潰そうと柵にもたれかかった時、横から声が掛かった。
「あれ、理苑じゃん」
来てたのかよ、と親しげに笑うのは、ナオという少年だった。
彼とは待ち合わせ時間がよく被るらしく、いつの間にか顔馴染みになっていた。
ナオはよく喋る奴で、基本的にずっとニコニコしている。だが、何故こんなことをしているのかという問いには答えてくれない。
何度か聞いてみたことはあるが、「だって金欲しいでしょ」としか言わなかった。
こちらも無闇に詮索したいわけではないので、そこから先は何も聞かないことにしている。
それに聞かなくても、想像はできる。
「待ち合わせだから」
簡単に答えると、彼も「俺も俺も」と言いつつ首を傾げた。
「お前、頬のとこ怪我してね?」
「え、マジ?」
右側の頬に手をやると、皮膚が切れている感触がした。ついでに袖には、拭った際についたのであろう血が染みになっていた。
言われるまで気が付かなかった。外気が冷たいせいで、痛覚が鈍っていたらしい。
「寒過ぎて気付かんかったわ」
「分かるー、寒いと感覚なくなるよな」
ナオはうんうんと頷いた。そう言う彼も、この寒空の中、随分薄着だ。
「いい加減コート買いなよ、見てるこっちが寒いって」
理不尽な文句に、ナオは「コートより、風呂に入って温まりたい」と、ケラケラ笑った。
先にスマホが鳴ったのは理苑だった。
「来たみたいだから、行くわ」
そう言ってひらりと手を振ると、ナオも手を振り返す。
――やっぱり寒そうだった。
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