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――バスルームから出ると、既にいい匂いがしていた。
「やば、めっちゃ美味そー」
理苑は髪を拭くのもそこそこに、リビングルームの方へ駆け寄った。
テーブルには、ロースステーキやサラダ、バゲット、ポタージュ、パスタなど、美しく盛り付けられた皿が所狭しと並べられていた。
ゴクリと喉が鳴る。
「これ、本当に食べていいの?」
理苑がそう聞くと、鵜飼は目だけで頷いた。
それなら遠慮なく頂こう。椅子に座りフォークを手にすると、理苑は一心に食べ進めた。
普段は夜におにぎりなどの炊き出しをもらったり、多少稼ぎがある時はネットカフェでカレーを食べたりというような食生活だ。一日一食などザラである。
理苑は無言でひたすら食べた。ただフォークを口と皿の間で往復させ、全て腹の中に入れてしまうまで、終始何も言わなかった。
ひとしきり食べ終えて満足していると、鵜飼が立ち上がった。
「満足したならもう帰りなさい」
そう言われるとは思っていた。けれどこのまま帰るのは勿体無いのではないか?
目の前にはこの先どれだけウリをしていても出逢えそうにないイケメン。しかもほぼ間違いなく金持ち。
そして勘が間違っていなければ、この人は恐らく――
「お礼させてよ」
鵜飼のスーツの袖口を掴み、不意を突いて相手の後ろにあるソファーに押し、上に跨る。
鵜飼が驚いたように目を見張る。
「君――」
「理苑って呼んで」
理苑は誘うように、目を細め淫靡に笑った。得意な笑い方だ。こうすれば大抵の女は股を開くし、男は理性を忘れ、襲いかかる。
それでも駄目なら、我慢堪らなくしてやればいい。
実際理苑にはそうさせる程の魔性があった。
理苑は家庭環境こそ最悪だったものの、母親譲りの顔だけは唯一恵まれていたと言える。
顔も身体も利用して、そうやって地獄で生きていた。
理苑は指先でつうと鵜飼のそれをなぞり、自身のものとを擦り合わせた。
服越しに緩徐(じわ)りと熱が伝わる。
「理苑君……っ」
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