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2.それが自分の価値なのだと識る
騒がしい物音で目が覚めると、あらゆるゴミが散乱した床が目に入った。
目の前には割れた瓶の破片と強いアルコール臭を放つ液体が広がっていた。
部屋の奥では男と女が酷く言い争いをしている。
割れた酒瓶はこの男の所業だ。
莉苑が起きたことに気が付いた女は、こちらを向き「動かないで!危ないから!」と鋭く叫んだ。
布団から這い出ようとしていた理苑は、母親の必死の形相から危険を感じ取って思わず手を引っ込めたが、その場の異様な空気と怒号に怯えて泣いた。
その泣き声に男は更に苛立ちを募らせて舌打ちした。
「うるせぇ!泣くんじゃねぇ!」
大声に反射で身体が震えた。
「やめてよ!理苑に当たらないで!」
女は悲痛な声を上げて、自分の足が破片で傷付くことも厭わず、息子の元へ駆け寄り男から隠すように抱き締めた。
「じゃあテメェが泣き止ませろ!テメェで勝手に産んだガキだろうが!」
男の怒声など殆ど聞こえていないかのように、女は理苑をきつく抱きながらひたすら「ごめんね」と繰り返した。
それが「怖い思いをさせてごめんね」なのか、「産んでしまってごめんね」なのか、理苑にはまだ判らなかった。
暫く怒鳴り声が続いていたが、やがて男は地鳴りのような足音を立てながら何処かへ出て行った。
こうなったら遅くまで帰って来ないことを女は知っていた。
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