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ああそういえば。 そんなようなことを言った覚えが……。 いや、正確に言うと、そんなようなことを言っていたと後から聞かされた覚えがある。 塩田の腕の中で。 当時、塩田が入っていたサークルの飲み会に誘われて、断りきれずに参加して、勧められるがままに飲んでいたら酔い潰れてしまった。 気がついた時には全裸でベッドの上にいて、塩田は既に僕の中に入っていた。 「思い出したか」 塩田の顔には、朝の空気の爽やかさとは真逆の妖しげな笑みが浮かんでいた。 顔が熱い。 両手のひらで左右の頬を包むと、そこは湯呑みを持っていた手よりも熱く、鏡を見なくても赤くなっているのがわかる。 「あの時のお前は素直で可愛かったな」 「悪かったな、今は可愛くなくて」 頬に手を当てたまま睨みつけると、塩田はなぜか僕から目を逸らした。 「まあ、僕がどうとか関係なく、塩田は昔から誰が見ても可愛いって言うような女の子とばかり付き合ってたもんな」 そんなお前がどうして僕と……。 そう聞きかけたが、僕にはその問いを声にする勇気はなかった。
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