絶対、泣かない

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 変わらないねーーその言葉の響きの寂しさと虚しさを、彼女は少しも気付いてなどいないだろう。  そこまで田舎ではけれど、けして都会とは言えないこの土地を出て東京に就職した友人に久しぶりに会ったのは、高校卒業十年後に開催された同窓会だった。 「香苗久しぶりー」  志穂はそう言って私のいるテーブルの方にやってきた。垢ぬけたメイクを施し、ボルドーのサテンのパーティードレスに身を包んでいる。こんな日に、同窓会なんて来るんじゃなかった、と心から思った。  昨日は、ひたすら機嫌の悪かった上司の長いお説教――という名の憂さ晴らし――の対象に選ばれたのが私だった。そんな時間があるなら仕事を進めた方が明らかに効率的なのに、ついてないな、と思いながらしきりに頭を下げた。たしかにきっかけは私にあり(それは単純な誤入力だったのだけれど)、それがどういうわけか最近の勤務態度がなっていないという話になり、しまいには部下のミスまで私のせいであるかのような話になっていた。なんて日だろう。帰って、愛犬のケビンに癒してもらわなかったら荒れていただろう。  そうして、なんとかその日をやり過ごし、迎えたのが翌日の同窓会だった。ちょっとした鬱憤が晴れればいいなと思ってもいたし、単純に久しぶりにクラスメートに会うのも楽しみだった。社会人になって、私は高校の同級生とはほとんど会わなくなった。仲の良い子たちがみんな、東京や大阪、愛知に出て行ってしまったからだった。 「志穂、綺麗になったね。やっぱり、都会生活はちがうねー」  なんて言ってみたものの、自分のみすぼらしさにうんざりする心を表に出さないように必死だった。ずっと、自分の見た目がコンプレックスだった。それは濃いムダ毛やなかなか痩せない体型のせいでもあったし、化粧の仕方に自信がないことも原因の一つではあった。服装のセンスも、たぶんない。
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