絶対、泣かない

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「香苗は変わらないね、高校の時のまんま!若さを保てるって大事だよねー」  志穂のそれは嫌味を言っているわけではないのは見て取れた。それでも、私の心は少しも晴れはしなかった。若さではない、あおさ(、、、)だと私は瞬時に思った。仕事しかしてこなかったのだ。大学デビューも果たせず地味なまま卒業し、就職はどこにでもあるような中小企業にした。特技があるわけでもなく、ただただ地味な私ができる仕事など事務くらいなものだろうとなんとなく思っていた。夢も、ない。 「なに言ってんの、志穂なんて色気まで出てるじゃん」 「やだ、もうー」  そんな風に、劣等感を浴びたくてここに来たんじゃなかったのに。苦しくなって、いっそこのまま帰ってしまいたかったが、始まったばかりの同窓会を抜け出せる勇気はなかった。 「彼氏はできた?」  いつの間にか、当時仲の良かった莉緒と真由美も集まってきて、話題は色恋に移っていた。女は色恋沙汰が好きだ。 「できたっていうか、そろそろ結婚するかも」  言い出したのは真由美だった。大阪の大学を卒業し、そのまま大阪で就職をした彼女は、高校在学時はがりがりに痩せていて、それこそ折れそうなほどの身体をしていた。それが今や、きれいにある程度の肉――たぶん筋肉――を付けて、美しいスレンダーボディを獲得していた。 「え、まじ?もうプロポーズされたの?」  志穂が興奮して食いつく。 「ううん、でも同棲して二年が経って、家を買おうかって話してるから、たぶんそうなるかなって」  はにかむように言う真由美は可愛かった。地元にいた頃の地味さはとっくに影を潜めている。  すると、莉緒があまり会話に入ってこない私を気遣ってなのかこちらに水を向けた。 「香苗は?彼氏いるの」  こっちに向かなければいいと思っていた話題が、真っすぐにこちらに来てしまった。 「…ううん。仕事ばっかりしてたから、彼氏未だにできたことないんだよね」  そこまで言わなくても良かったかもしれない、と後悔したが遅かった。三人は、あぁ、という微妙な反応とともに一瞬言葉に詰まったようだった。みんな、それなりに恋愛をしてきたのだろうと察する。 「キャリアウーマン、格好いいじゃん!」  そう言って場の空気を変えたのはやはり志穂だった。 「香苗、元々黙々と何かするのすごく向いてたし、仕事にそれだけ集中できるのすごいよ」  そう言ってくれた。けれど、ちがうのだ。仕事に集中してきたのではなく、残業もとにかく多い職場で、出会いも私にはなかった。それだけのことだ。家に帰ってはお風呂に入って泥のように眠って、そんな繰り返しだった。
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