妖狐の血判状

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 あれから幾年が過ぎただろう。私は毎日違う者の姿を借りながら日銭を稼ぎ生きている。ある時は他人を騙し、ある時は男に貢がせる。極力姿を見せないように、暗い夜の街で生きていた。  同じ人の姿で24時間を超えた場合どうなるか、また変化した姿を本人に見られたらどうなるか分からない。そんな緊張と恐怖の中生きている。  今頃妖狐は私の姿で幸せに暮らしているのだろうか。今となってはどうでもいい話だ。  今夜も、名前も知らない女の姿を借りている。この女の容姿をどう利用して日銭を稼ごうか。そう考えながら仄暗(ほのくら)い繁華街の路地裏を歩いていた。賑わいはなく、身も心も肌寒かったため、前も見えないくらい身を縮める。  人気のないこの道は不気味だったがもう慣れてしまった。こういう道なら滅多に本人に出会うことはないからだ。  繁華街に出たらすぐに男に声をかけよう。そして今日の生活もすぐに終わらせよう。  そうして繁華街の光が射し、人の多い公道へ足を踏み入れようとした瞬間、とある女性の声が耳に入った。 「え?どうして、私がもう1人いるの?」  前が見えないほど身を縮めていたため、目の前の女性に気が付かなかった。彼女は私の姿に驚いているのか、膝を震わせていた。それも無理なかった。なぜなら自分と同じ姿の人物が立っているのだから。  私の脳裏に妖狐が告げた制約が浮かび上がった。   「あ…」
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