妖狐の血判状

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 いつも通りの毎日だ。  今日は普段誰も近寄らない校舎裏でマユミたちからの暴行を受けていた。 「ほんとに色々とムカつく!」  そう口しながら私を蹴り付ける理由は、親に模試の結果が悪いと叱責を受けたという、私には何の関係もないことだった。ただ日頃溜まった鬱憤(うっぷん)を暴力という形で誰かに吐き出したかっただけなのだろう。  痛みで震える身を何とか起こすと、また蹴られ地面に戻される。  どうしてマユミは私を選んだのだろう。彼女とはもともと何の接点もない関係だった。きっかけは確か、彼女の機嫌が悪い時にたまたま私が横を通り過ぎ、一瞬目があった時からだった気がする。  だから特に私を選んだ明確な理由があるわけではない。  なら、私は悪くない。なら、彼女が悪い。なら、仕返しをしても良い。  暴行に飽きた彼女たちは談笑しながら帰っていく。姿が見えなくなるまで遠くへ去った隙に、私は彼女の姿に変身した。  私はまず、校舎内で人の目が付くところに足を運び、ホウキや椅子で窓ガラスを叩き割った。数人の生徒がその光景を目の当たりにし、彼女のクラスメイトが「深瀬さん?何してるの?」と心配の声をかけた。  その声かけに応じることなく、私は足早にその場を後にする。  これでいい。目撃者がいれば事件が大きくなった時に事が運びやすくなる。  これでもずいぶんと気分が晴れやかになったが、今ひとつ物足りない感じも残っていた。  二度とマユミの姿にはなれないため、もう少し何か遊びたいと思っていた矢先、後ろから肩を叩かれた。 「やぁ、マユミちゃん。何してるの?」 「ワタルくん?」  彼の名は渡辺ワタル。深瀬マユミの彼氏だった。彼はマユミには勿体無いくらい顔立ちが良く、女子生徒の憧れの的だった。  私の不幸を差し置いてこんな贅沢を味わっているのかと、マユミに嫉妬していたのだが、これは好機だと思った。 「ワタルくん、今からお昼だよね?一緒に屋上でご飯食べない?」 「いいよ、行こうか」  そう言って彼の腕を引く。私は初めて彼の身体に触れたことに喜びや優越感を感じていた。  マユミの姿で夢を果たしたことは少し残念だが、本来の姿であれば一生叶うことはなかっただろう。  2人で並んで昼食を食べ、憧れの男子と談笑を交わす。この上ない幸せだった。
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