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立て続けに起こる恐怖にどうして良いか分からず、当てもなく走っていると、いつの間にかあの稲荷神社に辿り着いた。
妖狐に聞けば何か分かるはず。そう思い、参道に足を踏み入れた。
「妖狐!いないの!?いたら返事して!」
本殿や参道脇の茂みなど、目が血走るほど全力で探す。
「どうしたんだい?そんなに血相変えて」
背後に気配を感じ振り返ると、妖狐が佇んでいた。
すぐに私は妖狐の体に縋りつく。
「自分の姿に戻れないの!どうしたらいい?」
それを聞いた妖狐は嘲りを込めて高らかに笑い声をあげた。その状況に理解が追いつかず、思わず妖狐から距離をとる。
すると妖狐は目元を細め、不敵な笑みを浮かべた。
「そうかそうか、とうとう戻れなくなってしまったか」
「どういう意味?」
「言ったろう?代償を伴うと。其方は能力に縋るあまり、自分の姿を見失ったのさ。もう戻ることはできない。残念だったね」
はじめに妖狐から忠告されたことを思い出した。想像すれば自分の姿をはっきり思い出すことができる。しかし元の姿に戻ることを体がまるで拒んでいるようだった。
「それじゃ困る!どうにかしてよ!」
「私は其方に説明をし、血判状で契約を交わした。それを忘れ、能力に溺れたのは其方だ」
さらに縋ろうとする私に、妖狐は鋭い目つきで睨みつけ、声音を下げて告げてきた。その姿は正に妖怪そのもので、私は初めて取り返しのつかないことに陥ったと実感した。
「これでようやく私はこの檻から抜け出せる」
すると妖狐はみるみるうちに人間の姿へと変貌し、その姿が明瞭になった時、私は恐怖のあまり絶句した。
それは正真正銘、私の姿そのものだったからだ。
「其方が自らの姿を忘れてくれたお陰で、私はお前の姿を手に入れることができた。私は長年封印されていたのさ。しかし血で契約を交わした者の姿になれば解放されると知った時から、この機をずっと待っていた」
「私はどうなるの?」
「これから本物の加藤カレンは私、其方は二度と加藤カレンとして生きることはない。そして一生他人の姿を借りながら生き続けなければならない。姿を見られてはならないという制約を抱えて…」
妖狐は最後にそう告げ、眩い光と共に瞬く間に姿を消してしまった。
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