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ご主人の涙を見て、僕はようやくあの気持ちを理解できた。
──これは感謝だ。
僕を撫でてくれて抱きしめてくれて美味しいご飯を作ってくれて、愛してくれて......。
(──ありがとうございますご主人......)
でも感謝は伝えられない。鳴くこともできない僕は感謝を伝えたくても伝えられないのだ。
大粒の涙を流して僕を抱きしめるご主人。僕はそれを見て、いつもの優しい笑顔のご主人が頭に浮かぶ。
力を振り絞って僕は自分の顔をご主人の顔に近づけた。
「──?」
心配そうに僕を見つめるご主人。僕はご主人の頬をつたう涙を弱々しく舐めて拭う。
(ご主人に涙は似合いません......笑ってください......ご主人には笑顔が一番似合うんですから......)
抱きしめる力が一層強くなるご主人と反して、僕はもうどこにも力が入らなかった。
(ご主人......今まで、ありがとうございました......)
ついに瞼にも力が入らずに閉じてしまう。
世界が闇に包まれる。
夢に見た奈落の世界のように浮遊感に包まれていくが、ご主人が愛を与えてくれて孤独感はない。
僕は安心してこの浮遊感に身を委ねて、静かに眠った──。
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