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意味を知るより声が聞きたい
──声が聞こえる。
遠くからでも分かる声。
優しくて信頼できて、何よりも大好きな声。
立派な僕の耳だからこそ聞こえる声だ。
(──ご主人っ!)
背中を捻って勢いよく起き上がる。ご主人が選らんでくれた首輪の鈴が綺麗な音を出しながら、僕はご主人の所に急行する。
家の中を小走りしていく。右へ左へ体を進めて、僕の立派な爪がフローリングに当たって引っ掻く軽い音を出しながらご主人に近づいていく。
(なんですかっ?! どうされたのですかっ?!)
発見したご主人はキッチンに立って何かをしていた。
ご主人は視線を僕に向ける。
美しい瞳に、同じくらい美しい茶色の毛並みの僕が映っている。ご主人は僕にはない鮮やかなの赤い唇を開いて動かし、テレビでしか聞いたことのない狼の遠吠えのように美しく、でも守りたくなるほど繊細な声を僕に投げかけてくれた。
「──!」
僕に何かを伝えようとしているようだった。
(ごめんなさいっ!! なんて言ってるのか、分かりませんっ!!)
僕はご主人の可憐な声に答えようと自慢の声を一鳴き披露した。
するとご主人は少し困ったような表情をして、招き猫のように右手を上下に軽く動かし、また喋り続けた。
(ご主人っ!! なにかお困りですかっ!?)
僕は困っているのだろうご主人をお手伝いするために、更にご主人に近づき凛々しい後ろ足で立ち上がって体を密着させる。ご主人の長くてきれいな髪が鼻をかすめていい香りがしてきた。
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