第12話『それぞれの想い』

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…ここは? 雪乃は気が付くと、見覚えのある場所に居た。起き上がり周りを見ると、インフィニティ・ハイスクールの敷地だと分かった。 雪乃は不思議な感覚だった。自然と向かうべき方向が頭に思い浮かび、身体が自然と動き出していた。北棟の真横を通り過ぎると、今まで行ったことのない北棟の裏側に向かって身体が動いた。裏側は、木々が繁っており鬱蒼とした雰囲気で、裏側に唯一ある扉の前で足が止まり、扉を開けた。扉の中は地下へと通じる階段があった。薄暗い雰囲気で、下まで見渡すことが出来ず、不気味に感じたが身体は自然と動いてしまい、一定のペースで階段を下り続けた。 下に行くに連れ暗さは増し、ついには視界が暗闇に奪われてしまったが、足は止まらず一定のペースで階段を下り続けた。間もなく階段が終わり部屋らしき所に辿り着いたが暗闇で何も見えない。 「ヒャホー!ほんとに来やがったぜ!」 正面の方から若い男の声が聞こえた。 「…だ、誰?」 パチンと指を鳴らす音と共に証明がついた。目の前には赤髪の高校生くらいの男性がニヤリと笑いながら立っていた。 「へぇ、可愛いじゃん、雪乃ちゃん。」 「…あなたがゴーストの正体?」 「ん?まぁそんなとこ。あの特例班のリーダーの女、霊力自体はそんなに強くないね。質もあまり良くなかったぜ。」 「…なんか、今までのゴーストと違う。」 雪乃は今までにない恐怖を感じた。 「…何か違和感でも感じたかい?」 男はまたニヤリと笑った。 「…あなた、ベータに似てる。」 「プッ、ハハハ、勘が鋭いな。そう、俺はお前らが言うアルファから生まれたゴースト、そうだな、順番的には『デルタ』ってとこか?俺の仕事はガンマが成し遂げなかった白波瀬雪乃、お前の完全監禁だ。」 男がパチンと指を鳴らすと、階段が床から現れた鉄格子に覆われた。 「これでこの部屋から出ることは出来ない。」 「…あなたたちは何故、私を…白波瀬家をそこまで排除しようとするの?」 「プッ、ハハハ、そんなのはお前が危険な存在だからに決まってるだろ。アルファは潜在的にお前を恐れてる。お前らは浄霊やら除霊やらでゴーストをあの世に送ろうとするが、ゴースト自身はそんなことは望んでいない。何故、この世に残る存在になったのか、お前らは本気でゴーストの立場になって考えたことがあるか?」 「…ゴーストの立場って。あなたたちは罪のない人間たちを襲う、それは許される行為じゃないわ。」 「そんなゴーストを生み出したのも人間自体だろ?…雪乃、お前俺と一緒にならないか?」 「…え?」 雪乃は言葉の意味が理解できなかった。 「お前の霊力は計り知れないんだよ。俺と一体になれ。お前の霊力を余すこと無く俺に寄越せってことだ!」 デルタは雪乃に突進し、雪乃は壁に激突した。 「ヒャハハハ、霊力はあるのに使い方がわからねぇんだな。勿体ない、勿体ない。」 デルタは雪乃の顎を掴み、自分の顔に近付けた。 「俺と一体になってよ、一緒に世界を創ろうぜ。」 雪乃はデルタを振り払おうとするが、力の差で敵わなかった。デルタは雪乃の霊力を吸い取ろうと、雪乃の唇にキスをしようと顔を近付けた。 「…だ、駄目。」 「お前、調子に乗り過ぎ。」 雪乃の目前にあったデルタの顔は、何者かに髪を後ろから引っ張られて遠ざかった。デルタはそのまま勢いよく投げ飛ばされ壁に激突した。 「お姉ちゃん、大丈夫?」 「その声はべーちゃん!?」 雪乃の前に現れたのは、ベータよりも10歳ほど歳上に見える女性だったが、雪乃にはベータだとすぐに分かった。 「お姉ちゃん、助けに来たよ。」 ベータは雪乃に手を差し伸べた。雪乃はベータの手を握るとゆっくりと立ち上がった。 「…ベーちゃんだよね?」 「うん、そうだよ。」 「身体が大きくなった…。」 「この世界ではホントの姿になっちゃうみたい。私は子どもの姿が楽だからそっちのが好き。」 「…ほんとは私と同じくらいなんだね、ベーちゃんって。」 ベータはニコッと微笑んだ。 「調子に乗んなよ!このくそガキがぁ!」 デルタは壊れた壁の瓦礫から身体を這い出して立ち上がると、ベータに向かって光の速さで突っ込んだ。 「ベーちゃん!!」 砂埃が舞い上がり視界を失った雪乃は、埃を払いながらベータの姿を捜した。 「大丈夫よ、お姉ちゃん。」 ベータの声と共に埃が晴れると、デルタの首を締めて立っているベータの姿があった。 「…この…くそガキ…ガッ。」 「お前は失敗作だ。」 「…に、人間に肩入れする…お前こそが失敗作だ…グッ。」 ベータは締める力を更に強めた。 「べ、ベーちゃん、駄目!死んじゃうよ!」 雪乃はベータの手をデルタの首から離そうと掴んだ。 「…どうして?こいつはお姉ちゃんの敵よ。」 「それでも死なせては駄目!」 ベータは少し考えると、突如手を離しデルタは地面に倒れた。デルタは泡を吹いていたが、すぐに咳込み始め、雪乃は安堵した。 「お姉ちゃん、私はまだ人間が分からないよ。悪くない者は殺しちゃ駄目なのは分かるよ。悪い者も駄目なの?」 「どんな理由があろうと殺しちゃ駄目。人間ってのは命を大切にするのが基本よ。どんなに憎くても恨んでいても殺しちゃ駄目。」 「…ゴホッ…フンッ、雪乃に礼なんて言わないぜ。その甘い考えが命取りなんだ。」 デルタはフラフラと立ち上がり、雪乃の顔を見た。 「…何だよ、その目は。」 デルタは雪乃の目力を感じ、一歩退いた。 「…お母さんの気を感じる。」 …雪乃、私はここに居るわ。あなたが私を認識できるのは、あなたの気がゴーストを上回ることができた証拠よ、自身を持ちなさい。 「うん、お母さんがいるのなら私はもう何も怖くないよ。」 「…何をブツブツ言ってんだ!?」 デルタは雪乃を睨み付けた。 …雪乃、目を閉じて私の思考を読み取りなさい。 「はい。」 雪乃は目を閉じた。 「…何だ!?俺を馬鹿にしてんのか!?いいだろ、俺も本気出すぜ!」 デルタの怒りが頂点に達した。
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