第13話『ミサカの魂』

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「…急に霊力が上がってる。」 ベータの言葉通り、雪乃もデルタが放つ気の強大さを身体で感じていた。気が付くと、母親の声が聞こえなくなっていた。 「ヒャハハハ、どうした雪乃!固まっちまったか?」 デルタは舌舐めずりした。 「先ずはお前だ。」 デルタは姿を瞬時に消し、ベータの背後に現れると回し蹴りでベータを弾き飛ばした。デルタは飛ばされたベータに追い付くと、腹の上から踵落としを喰らわせ地面に叩き付けた。 「ぐふっ。」 ベータは吐血をしながらも、デルタの追撃を避け立ち上がった。 「何だよ、まだ生きてんだ。」 ベータは姿を消すとデルタの背後に現れ、掌底を喰らわせようとしたが、デルタは振り向きもせずにベータの腕を掴み、そのまま宙を回転させて地面に叩き付けた。 「ぐわっ。」 「…調子に乗りすぎなんだよ、裏切り者が!」 「もうやめて!!」 雪乃は倒れているベータに駆け寄った。 「ベーちゃん!大丈夫!?」 ベータは目を薄っすらと開けて雪乃の顔を見ると、ニコッと微笑み、意識を失った。 「雪乃、こいつはゴーストだ。本来、お前らと一緒に楽しい日々を送るべき存在じゃねぇんだよ!」 雪乃はデルタに振り向いて睨み付けた。 「何だよ、まだそんな目をすんのか?お前も少しは痛め付けないと分からないみたいだな。」 デルタは怒りで頬をピクピクと震わせながら雪乃に殴りかかった。 「…な、何だよ、これ。」 デルタの拳は雪乃の前に見えない壁でもあるかのように何かにぶち当たり、雪乃まで届かなかった。 「くだらねぇ!バリアなんか張りやがって!」 デルタは連続でパンチや蹴りを繰り出した。しかし、その全てが雪乃に届くことはなく、雪乃の前の見えない壁を破壊することも出来なかった。 「はぁ…はぁ…一体何のマネだ。」 「あなたを許さない。」 「は?人間ごときが調子に乗るなよぉ!」 デルタは掌を翳し発光させると、光弾を連続で放った。 「死ねやぁ!!」 「…無駄よ。」 光弾も全て雪乃に届くことはなく、跳ね返った光弾がデルタ自身を襲った。 「ぐわっ…こ、このくそガキ…。」 デルタはフラつきながらも立ち上がった。 「この世界ではあなたは勝てない。」 「う、うるせぇ!…ぐふぁっ…」 意気込んだデルタは口から大量の血を噴き出した。 「ぐっ…な、何だよ、これ…。」 次の瞬間、デルタは頭の先から黒紫色に腐敗をし始め、あっという間に全身に広がりその場に倒れた。 「…一体何が起きたの?」 「お姉ちゃんを殺そうとしたからよ。」 ベータがか細い声で言った。 「ベーちゃん!気が付いたのね。」 雪乃はベータに駆け寄り、立ち上がるのを支えた。 「…デルタは何がどうなったの?」 「デルタを生んだアルファは、お姉ちゃんを殺そうとはしていないの。デルタはその掟を破ろうとした。きっと、生まれた時からプログラミングされていたのよ。デルタの役目は、あくまでお姉ちゃんを生きたまま捕まえたかったの。」 「アルファは私を捕まえて何をしたいの?」 雪乃は少し怯えた表情で言った。 「…それは私にも分からない。でも、アルファの生まれたきっかけには白波瀬家が関係してる。それは私にも分かるの。」 ゴゴゴゴゴゴという音と共に鉄格子が床に戻っていった。 「お姉ちゃん、戻ろう。」 ベータは雪乃の手を引いて階段に向かった。 ー センシア西部の採掘場 ー 「これでおしまいよ。」 神楽が高速パンチでゴーストを身体ごと貫くと、ゴーストは散り散りになりながら消滅した。 「…力をありがとう。お戻りください。」 神楽が手を合わせると、神楽の頭の先からボワッと白い煙の玉のようなものが現れてトンネルの天井を通り抜け空へと消えていった。 「…今のがイタコの力。」 「そう、死者の魂を呼び寄せて力を借りるのよ。」 「今のは誰の魂を呼んだんですか?」 「2年前に亡くなった屋敷奏先輩の魂よ。彼女の能力も借りたの。」 「てか、今のゴーストは絶対ゴールドクラスでしたよ。それをあっという間に。」 「…私が死者の能力を使わせてもらう時は、その力が本来の倍になるの。私はずっとその修行をしていたから。とりあえず、さっきの爆発音がした場所を目指しましょう。」 神楽と澪は爆発音がした後、すぐにその場所を目指そうとしたが、目の前にゴールドクラスのゴーストが現れたことで今に至る。 2人は駆け足で音のした方向に進んだ。 雪乃は心地よい揺れを感じながら目を覚ました。 「あ、お姉ちゃん起きたね!」 視界を下げると7歳児ほどの大きさに戻っていたベータがニコッと微笑んだ。 「…あれ、私。」 「良くやったな、雪乃。」 ネロの声がし、雪乃は今自分がネロに背負われていることにようやく気が付いた。 「わわわわわ、す、すみません。」 「騒ぐな、落ちるぞ。」 雪乃は恥ずかしさで顔を赤くした。 「…あ、そういえば愛那ちゃんや皆は?」 「後ろよ。」 伽藍の声がして振り向くと、伽藍が愛那を、亜梨沙がいおりを背負って歩いていた。 「…ベータのお陰で愛那も助かったの。」 伽藍の言葉に、雪乃がベータに視界を再び向けると、ベータはピースサインをしながらニッと笑った。 「私もベーちゃんに救われた。さっきのゴーストはアルファが生み出した新しいゴースト、デルタでした。」 「何だって!?」 ネロは驚いて足を止めた。 「デルタはアルファの指示で私をあっちの世界に閉じ込めようとしていたんです。」 「…迂闊にお前に浄霊させるのも問題だな。」 ネロは考え事をしながら再び歩き出した。 …アルファから生まれたゴーストはアルファが中身をプログラミングしている。ならば、ベータだって例外じゃないはずだ。ベータはすっかり人間に近しい存在となり、常に雪乃の側にいる。そして、雪乃や特例班の命すら救っている。これは、アルファの想定内の動きなのか?それとも…。 ネロがチラリとベータの表情を窺うと、ベータはさっきまで雪乃に向けていた無邪気な笑顔とは程遠い鋭い目をした表情で歩いていた。
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