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豹兒視点 だから戦う
外はすっかり暗くなってきた。
ポチの唇を奪ったジフに、若干の殺意を抱きながらゾンビを迎え撃つ準備をした。銃火器の用意、ナイフに刀、ゾンビとの戦闘は噛みつかれたらアウトだ。できるだけ銃で仕留めるか、走行不能にする。弾切れになったら、ナイフを投げるかリーチの長い刀で突き刺す。接近戦は最終手段だ。
ダリウスがいる場所から、ここまでは車で走行できる道は無い。恐らくバイクでやってくると思われる。その為、鉄柵で敷地を覆った此処へは、柵を乗り越える必要がある。
あらかたゾンビが柵を乗り越えた時点で、潜んでいる下野のメンバーが後方から狙撃して数体引きつけて撤退する予定だから、かなりの数が減らせるはずだ。
ただ、厄介なのは……ゾンビが新鮮な事だ。痛みも感じず普通の人間なら動けない怪我でも、回復して襲ってくる。身体能力も生前以上だ。知能もそこそこ残っている。何より夜の戦闘で、此方はよく見えないが、ゾンビは夜目が利く。俺達の数倍見えている。一人で一体を相手にするなら余裕だが、数体となると不利になる。だから発電機につないだ投光器でライトアップした鉄柵のところで、いかに数を減らせるかが肝だ。
「狙撃の時点で、確実に当てて行けよ」
そこそこの距離を取りつつも、当てることが出来る、100メートル以内に各自、ライフルを装備した。
「言うまでもないが、ライフル捨てる時に弾残すなよ」
知能の残ったゾンビは、武器の扱いも上手い。全くもって厄介だ。国によってはゾンビが爆撃機に乗ったという話も聞いた。
「はい」
「了解っす」
最初は俺も前衛で狙撃の体勢になる。
何台かの車、土嚢、朽ち果てた民家から運び込んだ大型家具、様々な物を使って此方が狙撃しやすいように備えた。ジフの無線にゾンビの接近を知らせる連絡が入った。
今まで、どんな戦闘でも少しも緊張することは無かった。だけど、今は少し落ち着かない。頭も冷静で体の動きも申し分ない。ただ、心配なんだ。
もしも、ジフやレッド、蒼陽がゾンビ化したら……厳しい戦いになる。一人なら、いくらでも作戦が立てられるけれど……ポチが居る。ポチが怪我をして苦しむ姿なんて見たくない。ポチが泣くのも嫌だ。
だから……そうならないように、戦う。
目を閉じて、呼吸を整え……集中する。
耳を澄ませ、感覚を研ぎ澄ませる。
俺は今から、ゾンビを殲滅する機械になる。
一体ずつ、確実に、動きを止める。
「……来ました」
「……蒼陽、ライトを全部つけろ」
虫が鳴く静かな夜に、ダリウスのバイクのエンジン音が響き渡った。
用意していた数台の大型の三脚式投光器が光を放ち、工場の敷地を照らした。
□□□□
来た。目標を肉眼で確認できた。ダリウスのバイクは、ゾンビを誘導するために速度が遅かったが、鉄柵に近づくにつれて、さらに速度を落とした。
ジフのライフルから放たれた弾が、ダリウスのバイクのタイヤに命中すると、車体が横倒しになりアイツが飛び降りた。投げ出されたバイクは鉄柵に衝突し大きな音を立てた。
2発目のジフの弾は、アイツを少し掠めただけだ。 いや……柵の間を通して、この距離で動く目標物に当てるだけで驚異的だが。
ダリウスが柵を掴んだ所で、レッドの弾が奴の体を狙ったが、薄暗い場所からの侵入という事も有り、柵に弾かれた。アイツの服は人間の血に濡れて斑に黒く見える。ヘルメッドも黒い。狙いにくい。
俺の弾が、アイツの肩を掠めた。
ダリウスの体が、柵の上から落下した。俺の位置からは暗くよく見えないが、動いたように見える。位置的にレッドが対処する場所だ。切り替えて、追いついてきたゾンビ達に向かって撃つ。
「ぐあぁ…」
1、2…確実に鉄格子の間から近づいてくるゾンビにヒットさせる。ライフルの弾が当たり反動で倒れたゾンビは、再び起き上がる。まったく面倒だ。
しかし、弾をくらった分、動きは悪くなる。腕が上がらなくなり柵を上がれないゾンビ、足の修復に時間がかかり立ち上がらないゾンビ、あいつらは後方からくる下野がやってくれるだろう。
柵に上がった奴を自分に近い個体から、狙う。ライトを受けて狙いやすくなった。頭を狙い,、撃ち落とす。向こう側に落ちたゾンビを足場に、ほかのゾンビが柵を飛び越えた。どうやら、多少は戦闘能力がある奴もいるようだ。数体のゾンビが柵を乗り越え、物陰に身を隠した。
数体、こちらに入り込んだところで、装備を変えた。
「ほらよぉ!!」
ダリウスの声が響き、柵付近から一瞬身を現したアイツが手榴弾を投げた。爆風と砂埃で視界が悪くなる。こちらの誰にも被害はなかったが、弾け飛んだ板が建物側の一番大きな投光器に繋がった発電機を倒した。コンセントが抜けたのか、周囲が一層暗くなった。
血みどろのゾンビは闇の中では更に補足しにくい。
撃ちながら後退し、投光器を元に戻すか?だが、この前線を崩すわけにはいかない……蒼陽はどうした……視線を動かし確認したところ、ダリウスを追っていた。
「……」
仕方ない。このまま少し数を減らしてから向かう
もともと期待してなかったが、後方支援の予定の下野は、結局倒れたゾンビだけを相手にしている。無理してゾンビを増やされるよりはましだな。
ジフは相変わらず、まるで全て見えているかのように、確実に一体ずつ引き寄せて沈めている。バケモノだな。
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