心中

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少し時間が経ってから、入り口付近で音がした。豹兒が帰ってきたのかと思って、急いで涙を拭って、そちらをみると……ジフがシャッターを潜っている所だった。 「ジフ?」 「……」  どうしたの?と声を掛けようと思ったけれど……ジフの手に拳銃が握られているのを見て息を呑んだ。  ジフが何も話さず、静かに歩み寄ってくる。顔には一切の表情が無い。ジフは今のような真顔の方が威厳があって格好いい。でも、俺は、いつもの三枚目みたいな顔をするジフが好きだ。最後に見たかったな……と思いながら、記憶の中のジフの笑った顔を必死に思い出す。  きっとジフが時間をくれたのに、結局、豹兒とも綺麗にお別れ出来なかった。 馬鹿だな、俺。最後に好きになってくれてありがとうって言いたかったな。 最後に……雄っぱいも揉んで笑わせたかった。  バイバイ、豹兒。  ジフが、俺の目の前に立って、銃口を向けた。 「蒼陽は、お前が最後の世代だから、ゾンビにならないかもしれないなんて期待してたが……最後の世代もゾンビになる。俺は殺ったことがある。だから……期待するな。邪魔だから行かせただけだ」 「……うん」 「長ければ、数日は人間で居られるかもしれないが、その分、豹兒を苦しめるだけだろ?さすがにアイツにゾンビになられたら、ここらの人間は全滅だ」 「うん」  俺は、ジフの顔を見つめて頷いた。俺はジフの決定に賛成だ。感謝すら感じて居る。  きっと、ジフだって嫌なのに……あえて、一番の悪者になってくれているんだ。 「心配するな。……痛くない。苦しみも感じない。お前は人間として……眠るだけだ」  ジフの優しさに涙が止まらない。違うよ……誤解しないで、怖くない。 「うん、おやすみなさいだね」 「……」  こういうとき、相手の顔が見えない方が……ジフにとって負担がないだろうか?  そう思って、俺は後ろを向いて正座をした。 「俺……ここに来られて良かった。ポチになれて……嬉しかった……ジフの犬になれて幸せだったよ」  最後に一度、振り返った。  今日も渋くて男らしい、ジフの顔を脳裏に焼き付ける。 「ありがとう、ジフ」  自然と笑顔になれた。 「……ごめんね」  そして、覚悟を決めて豹兒のジャケットを握りしめた。  大丈夫。大丈夫。きっと、皆、これからも……元気にくらせる。もうダリウスもいないし、原作とは違った、明るい未来がまっているはずだ。 「……」  ガタガタ震える体を押さえ込んでいると、ジフが俺に近づいてきた。  上手く息が出来ない。    やっぱり、怖い。    でも、すぐ終わる。  ジャケットから豹兒の匂いがするから、顔を埋めて、歯を噛みしめて思いっきり息を吸った。 「……じゃあな、ポチ。悪かったな……守ってやれなくて……俺を恨んで化けて出てこいよ」  後ろでジフがグッとグリップを握った音がする。  俺は口を開くと情けなく嗚咽してしまいそうだったから、ジフの問いかけに必死に首を振った。    さようなら、豹兒。    さよなら、みんな。  どうもありがとう。 □□□□ 「……」  覚悟を決めてギュッと体を小さくしていたけれど、いつまで経っても、衝撃がやってこない。  あれ?もしかして、もう俺……撃たれて死んだ? 「……?」  俺…まさか、もう幽霊?  え?これからどうすれば良いの?お迎え待ち?  とりあえず、顔を起こして、ジフを振り返った。 「ははは……あははは……」  ジフが……笑っている。  顔に自分の逞しい腕を押しつけて、泣きながら笑っていた……。  その姿は、見ているだけで心臓を抉られるようで、苦しい。 「ねぇ……ジフ……俺?死んでる?俺こと、もう見えない?」   俺は立ち上がって、ジフの顔を覗き込んだ。  「……てめぇ、このアホ……撃ってねぇよ……負けだ、俺の負けだよ……ああー!!くそっ!!」 「っ!?」  突然、ジフに体を抱き寄せられた。俺は驚いて体が跳ねる。 「俺も、一緒に逝ってやろうか……」 「え?」  ぴったりと体を密着させたジフが、俺の背中に銃口を当てて言った。  見上げた顔は、相変わらず引きつった笑いだったけど、冗談には聞こえない。 「俺は……面倒見の良い男だからな。豹兒よりも、老い先みじけぇしな……付き合ってやるよ」  このままジフが撃ったら、弾は貫通してジフも死んでしまうのだろうか?  なんで?どうして、そんな思考に? 「や……やだよ。ジフと一緒じゃ、チンピラと舎弟みたいで天国の門通して貰えないよ」  俺は何とかジフに正気に戻って欲しくて、軽口を叩いた。 「あー?心配すんなよ。俺が開けてやるよ……着いて来い」  ジフの目が俺を射貫くように見ている。  俺は、ブルブルと首を振った。 「俺は、やれば出来る犬だから、一人で大丈夫」  手錠に繋がれた手でジフの胸を押して、ハッキリと言った。 「……あぁーそうかよ」  ジフが俺を離して、拳銃をホルスターにしまった。    えっ……しまっちゃうの? 「ジ……ジフ?」  ジフは俺を無視して、背を向けて歩き出した。 「……俺たちは、お前がゾンビになっても……やられたりしない。だから……その時まで、待ってやる」 「……ジフ」  ジフは、振り返ること無く倉庫を後にした。    
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