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「こんにちは、レオン君。テオからよく君のことを聞くから覚えちゃった」
この時なにかと理由をつけてクリスの前から立ち去ればよかったのに、雰囲気に飲まれて動けなかった。そこいるだけで人を惹きつける、そんな魅力が彼にはあった。
「テオと喧嘩してるって聞いたよ」
小さく首をふる、喧嘩なんてしていないただ彼と居ると無性に腹が立つだけ。
「あいつ無神経なところあるからイライラするでしょ?僕はテオの従兄弟だから昔からあいつのそういうとこ嫌だったな」
意外そうに見ればフフッとあざとく笑う。
「子供の時からずっとあんな感じ、もっと見た目とか気にしないとモテないよって言っても右から左。ようやく意識し始めて最近はだいぶマシになったよね、レオン君はどう思う?」
「お洒落とかわからないけどカッコいいんじゃないかな……」
だけど俺は別に前のままでもよかった、もさくて気まぐれなテオドアのままで。
「あいつあんなだけど、最近は変わろうと努力してる。僕驚いちゃった、俺の嫌な所があれば教えてくれって頭下げてきたんだよ、あのテオが!」
おかしくて堪らないと言わんばかりにくすくすと笑う。
「だから長い目で見てやって欲しいんだ、あいつ君に避けられてるの気にしてる」
暗い感情が胸に渦巻いていた、何故テオドアと俺の関係にクリスが口を出すんだと。訳知り顔であいつを語るのも嫌だった、そりゃ子供の頃からの知り合いなら俺よりもずっと親しいだろう。まだ俺とテオドアが出会って1年にも満たない。二人との間にどうしようもない隔たりを感じて気持ちが深く沈んでいく。
この感情は良くない、だから離れようと適当な理由を付けて立ち去ろうとしたのに彼が付いてくる。
「待って!君誤解してるでしょ」
華奢な見た目と裏腹にクリスは足が早かった、すぐに追い付かれ揉み合いになる。俺は感情的になっていて周りが見えていなかった。そしてクリスも小柄とはいえ男だから力が強い、振り払うには力がいる。
「僕とテオは……」
俺はただその続きを聞きたくなかった、だからクリスの体を強く押した。その先が階段になっているとも知らずに。
落ちていく彼に必死に手を伸ばすが届かない、みるみる距離が離れ、彼の体が床に叩きつけられる。助けないとと思うのに膝が震えて動けなかった。
「おい、クリス!大丈夫か!?」
ざわつく周囲の声はどこか遠く現実味が無いのに、その声だけはやけに鮮明に聞こえた。それはテオドアの声だった。
いち早く駆けつけた彼がクリスの体を優しく抱き上げる。それから落ちた階段の先を確かめるように見上げ、蹲る俺と目があった。驚いたような表情の彼から逃げるように視線を逸らした。
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