開発中だったBLアプリゲームの世界に転生したけどこの世界バクってやがる

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「そこに居られると邪魔なんですけど」  憮然とした声に思考を遮られ視線を上げるとモサい髪に瓶底眼鏡の男、ルームメイトの魔法おたくテオドアが床に寝転がった俺を踏みつける寸前だった。割れて破片の飛び散った照明スタンドを見て彼の眉間に皺がよる、同室初日にこんな惨状見せられたらそうなるのも仕方がない。こんな成りをしているがテオドアも攻略キャラの一人で髪をカットして眼鏡を外せばたちまちイケメンに早変わり、正直俺はコイツが苦手だ。根っからのモサオタクのコンプレックスを刺激される。いつもなら無視出来るのに気持ちがどん底に落ちてるせいでつい八つ当たりをしてしまう。  「うるさいっ、どこで寝ろうが俺の勝手だろ!」  それを聞いて彼は黙って部屋から出ていった。言い過ぎたと自己嫌悪しながらガラスの破片を拾っていくと、掴んだガラスが滑り指をざくりと切ってしまう。ぽたぽたと赤い滴がカーペットを汚していく、俺っていつもそう要領がわるいというか気がつけば二度手間になっている。  「割れたガラスを素手で触るなんてアンタは馬鹿なのか?」  箒を持って戻ってきたテオドアが心底呆れた口調でそう言うとボケっと座り込んだ俺の手を掴んで水場に連れて行く。それから手際よく傷口を洗いハンカチを取り出すと止血するように指を包んだ。  「部屋は俺が片付けとくから、保険医に診てもらえよ。破片入ってたら笑い事じゃ済まないからな」  ついさっき暴言を吐いた俺に対してこの態度、だから俺はテオドアという人間が苦手だ。彼は他人の言動なんて全く気にしない、ただ自分の思うまま行動する。もっと外見を気にすればと言われても面倒だから嫌だといい、運動神経がいいのだから剣術でもやってみればと言われても興味がないと一刀両断。  同じオタクなのに全く違う、そんなテオドアが疎ましいと同時に揺らぐことのない彼が羨ましかった。    「……さっきは悪かった」  蚊が鳴くような声でぽそりと呟く、俺の言動なんてどうでもいいだろうがそうしないと自分の気が済まなかった。テオドアは俺が謝ると思っていなかったのだろう意外そうにこちらに顔を向け、視線がぶつかると犬歯を見せてニッと笑う。  「声が小さ過ぎて全然聞こえないな」  いやお前、絶対聞こえてた反応だっただろとムッとなるけれど確かに謝る奴の態度としてはどうかと思った。  「さっきは俺が悪かったよ、色々あって気が立ってたせいもあるけど当たっていい言い訳にはならない。それに傷の手当もしてくれて助かった、なんつーか、その……ありがとう」  気恥ずかしくて視線を逸らし首筋を掻いていると、ふいに大きな手が俺の頭に降りてきてよく言えましたと言わんばかりにワシャワシャと髪をかき混ぜる。セットとか最低限だからそれはいいんだけど子供扱いが気に食わない。無言でテオドアを睨むとそれすら面白かったようで珍しく上機嫌に笑うテオドア、何故だろう、その瓶底眼鏡から覗く深い焦げ茶色の瞳に何とも言えない感情が湧き出してその腕を押しのける事が出来なかった。
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