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不動の俺様だと思っていたテオドアに変化が訪れたのは卒業の迫ってきた冬のこと。
あろうことかトレードマークと化したモサヘアーをばっさりカットしたのだ。これが夏なら暑くて切ったんだなと気にもとめないが今は雪もちらつく真冬。襟首が寒いだろうと他人事ながら心配になった。
さらにいつも遅刻ギリギリまで寝ているテオドアが俺よりも早く起きて髪をセットしている。
「お前寝癖付いてんぞ」
ついでと言わんばかりに俺の寝癖も整えられる。
「髪どうしたん」
「見れば分かるだろ切った、なんだ似合わねぇ?」
「いや、似合ってるけど……」
ガンガンと木槌で頭を殴られている気分だ、髪をセットしているだけでも衝撃なのに、あのテオドアが人に意見を求めるなんて。
しかし彼の変化の兆候は以前から気づいていた。そして何がきっかけなのかも予想出来ている。だから俺の言葉で機嫌を良くした彼に心が冷めていく。
「準備出来てるならさっさと学校行くぞ」
「わりぃ、クリスと約束あるから後から出るわ」
やはりそうか、クリスは本来ならこの世界の主人公になるキャラで悪役令息の俺が掻き回さなければ攻略キャラから愛されるのも彼だ。
いつもみたいに傍若無人な事をされたわけじゃないのに心がささくれたった。鞄を掴んでドアを開けようとしたところでふいにテオドアから呼び止められる。
「今日寒いんだからマフラーくらいしていけ」
ふわりと掛けられたマフラーからコロンのような香りがする、なんだろうそれが堪らなく嫌だった。じゃあなと扉が閉まるとその場にしゃがみこんだ。変わらなくて良かった、ずっとそのままでいてほしかったと置いていかれた駄々っ子のような感情が胸に渦巻いていた。横暴だ理不尽だと言いつつどこかで彼の無法さに付いていけるのは自分だけだと自惚れていたんだ。一番の理解者は自分だと可笑しくて可笑しくて唇を噛み締めた。
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