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お酒の力を借りて
終業時間のチャイムと共に、明奈は鞄を持って立ち上がる。黒崎も鞄を持って、明奈の方へ向かって来た。
「滝本、行こうか」
「はいっ」
2人でオフィスを出る時、福島が明奈へ駆け寄って来た。
「今から、食事ですか?」
ニヤニヤしながら福島が尋ねる。
「うん、そうだよ」
「そっか。ふふっ、行ってらっしゃーい。お疲れ様です」
やけに嬉しそうな笑顔で福島は明奈達を見送る。
「お疲れ様」
「お疲れ」
明奈と黒崎は福島に声をかけ、オフィスを出てエレベーターに乗った。
「まずは食事をしてから、少し落ち着けるBARで飲もうぜ。俺の車で行って、帰りは代行に頼んで送るから」
「はい…」
黒崎の車に乗り、お洒落なレストランの駐車場に車を停めた。黒崎のあとをついて行き店内に入ると、スタッフに案内されたテーブルには『reserve』と書かれたプレートが置かれていた。
明奈が座る椅子をスタッフが引いて明奈を座らせ、次に黒崎を向かい側に座らせる。店内は静かで落ち着いた音楽がゆったりと流れ、食事を楽しんでいる客の声が微かに聞こえていた。
「先輩、わざわざ予約して下さったんですか?」
少し声を抑えて話す明奈。
「あぁ、滝本と約束をした日に予約を入れておいた。美味しい店って人気で、予約しておかないと入れないって聞いたからな」
「ありがとうございます。いつも美味しいお店に連れて行って下さって、本当にありがとうございます」
明奈が改めて礼を言い、頭を下げる。するとスタッフが水とおてふきを持って来て、メニューを2人に渡した。明奈はメニューを開いて見る。フルコースメニューや、各種類の料理名が書かれているが、何が美味しいのか分からない。しかもその横に書かれた料理の価格に、明奈は息をのむ。
(えぇ……何この値段……前菜で2000円って……メインは一体……)
メイン料理の価格は、白魚の料理で一番安価のものでも6000円だった。肉料理になればその上をいく。
(お腹いっぱいにするには、いくらかかるの……)
いくら美味しい店だと言っても一品一品が高価で、明奈は心配になってくる。明奈が注文に迷っていると、黒崎が明奈に声をかけた。
「滝本、俺が注文していいか? 好き嫌いはなかったよな」
「あ、はい…」
「じゃ…」
黒崎はメニューを見ながらスラスラと長い料理名を言い、次々に注文していく。注文を終えると、スタッフが注文を復唱し確認する。フルコースになるように各種類から一品ずつ注文されていた。スタッフが一礼して奥へと下がり、黒崎が話し始める。
「今週は大変だったな。疲れてないか?」
「はい、何とか乗り切りました。でも土屋君どうしたんでしょうか?」
「若田から訊いた話だと、店舗で販売員と揉めたみたいだな。ほら、店舗によって売れる商品が違う時があるだろ?」
「はい…」
「それで販売員が商品の事で相談したら、他の店舗で売れている商品なのにここで売れないのは、販売員の売り方が悪いんじゃないかって言って喧嘩だって」
「あぁ……それは一番よくないなぁ。販売員はお客様第一だから、お客様に合わなければ売れないのに…」
「そうだよな。ウチの営業は普通の営業と違って、お客様の反応が肝心なんだ。いい商品でも肌に合わなければ、買ってもらえないんだからな。それをまだ分かってもらえてなかったようだな」
「そうだったんだ…」
「今、募集を出しているようだけど、早く新しい人が入って来るといいな」
「そうですね」
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