幸せ

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幸せ

長い長い夢を見ていた。 小学校で橋元と出会った頃の事、中学時代いつも橋元と2人で遊んでいた事、高校に一緒に通った事、そして由川と出会った事。由川に恋をして初めて話した時のドキドキ感、休憩時間に勉強していた楽しい時間、由川との別れ。 再会した時の喜びと甦った恋心、戸惑いながらの同居生活。黒崎との関係や告白、そして別れ、由川と想いを通じ合わせた夜の事。 次から次へと変わっていく夢に、明奈の心は忙しく鼓動を打っていた。人生を振り返るような夢。由川との恋がようやく実り、由川の腕の中にいるような温かく幸せな感覚。その温かく幸せな感覚の中にずっといたいのに、遠くの方から声が聞こえて来た。 何を言っているのか聞こえなかったが、少しずつ声が近づいて来る。 「……ないと…ダメ…………かなって…」 ところどころ聞こえる女性の声。 「いや………ちょっと……ものをだな…」 今度は男性の声だ。 そんな声が聞こえ、そこへフワッと明奈の心が温かくなるような声が聞こえた。 「え……はい……いッス」 その声に明奈の心は落ち着き、再び眠りに落ちる。だが…。 「あっ! ! 」 と大きな女性の声に、明奈の意識が少し目覚め始める。 「……と思っていたプリ…由川くんのは…」 (由川くん……) 「えぇ……マ…」 (由川くん…?) 明奈の知らない所で由川と誰かが話している。声は膜がかかったように少しくもっていて、誰の声かハッキリと分からない。だが由川の名が聞こえた後、明奈の心を包むような声が聞こえ、明奈は焦る。 数人の話し声が聞こえるが姿は見えない。どこで話しているのか分からないが、ドンドン声は大きくなり言い争っている。 「もうぉ! 由川さん!」 膜が取れハッキリと福島の声が聞こえた。明奈は顔を歪めてゆっくりと口を開く。 「んんっ………うる……さ…い……」 福島の大きな声が耳に入り、思わずそう言った。それに答えるように、由川の声が聞こえる。 「明奈…?」 ゆっくりと瞼を開けると、明奈を覗き込む由川の顔が見え、涙を流しながら微笑み由川が言った。 「明奈、おはよう。寝すぎだよ」 明奈の頬を温かい由川の手が包み、明奈はその手に頬を寄せ、涙を溢れさせて小さな声で言う。 「うるさいよ……静かにね…」 「うん、ごめんな」 明奈の額に由川が優しくキスをした後、由川の後ろで福島が泣きながら足元にしがみつき、黒崎が涙を流して笑い話しかける。 「滝本、おはよう。よく目を覚ましたな。おかえり」 3人が涙を流しながら笑みを浮かべ喜んでいる事に、明奈は理由も分からないまま涙を流し笑顔を見せた。 (長い間、ずっと眠っていた気がする。目が覚めてよかったんだ……) 「ふふっ、はい。ただいまです」 明奈が目を覚ました事を由川がスタッフに知らせ、医師や看護師が明奈の元へ駆けつけ、明奈は自分の状況を知る。そして医師と看護師が病室を出て行った後、黒崎と福島は安心したように笑顔で手を振り帰って行った。
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