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再会は突然に…
4月初旬。
満開に咲き乱れた桜が、春風に吹かれてはらはらと薄桃色の花びらを舞い散らせる。舞い降りた地面には幾重にも花びらが重なり、桃色の絨毯が出来ていた。
化粧品メーカー『ナチュラル』の営業に就職して3年。今年も営業部に3名の新入社員が配属され、仕事が終わった後、和食料亭で歓迎会が行われた。
「えぇ! 滝本先輩、帰るんですかぁ? 二次会行きましょうよぉ」
和食料亭を出て店の前。1年後輩の福島 麻子が、明奈の腕を掴んで引っ張る。
福島 麻子、24歳。
『ナチュラル』の営業部に所属して2年。明奈が営業研修をし、明奈を慕っている。
滝本 明奈、25歳。
大学卒業後『ナチュラル』に就職、営業部に所属して3年。真面目で大人しい性格。
「私、カラオケとか苦手だし。そもそも歌わないから…」
明奈は腕から福島の手を離そうと掴みながら、二次会に行く社員達をチラリと見る。新入社員の3人はもちろん、ほとんどの社員が集まっている。上司である営業部長と課長は支払いを済ませ、早々と別の店に向かった。
「別に歌わなくてもいいですよぉ。カラオケ店で、もう少し飲みましょうよぉ…ねぇ先輩…」
明奈の腕を離そうとしない福島は、甘えたように言う。福島は可愛い後輩だ。だが、明奈はカラオケが大の苦手。歌えないからではなく、あの空間が苦手なのだ。狭い部屋で大音量が体に響き、息が苦しくなるからだ。
「カラオケじゃなかったら、来るのか?」
そう言って近づいて来たのは、明奈の2年先輩、黒崎 克哉だ。
黒崎 克哉、27歳。
『ナチュラル』の営業部に所属して5年。明奈の営業研修をし、明奈を気にかけている。
「ま、まぁ…」
「おぉぃ、二次会、カラオケやめて、居酒屋で飲もうぜ!」
黒崎が他の社員達にそう呼びかける。
「えぇ! カラオケ店に予約入れたのに!」
男性社員がそう答えると、他の女性社員が「私もカラオケがいい」と言い出し、明奈は黒崎に言う。
「黒崎先輩、ありがとうございます。私はいいので、皆さんで楽しんで来て下さい」
「うーん……そうか…? 分かった…」
「福島もありがとね。私はいいから、カラオケ楽しんでおいで」
「うーん……先輩と行きたかったなぁ…」
「また今度、飲みに行こ」
「はい…」
ようやく明奈の腕から福島が手を離し、明奈は皆に声をかける。
「じゃ、お先に。お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
福島は手を振り、黒崎は微笑んで明奈を見送る。明奈は踵を返し、駅に向かって歩き出した。
駅に向かう途中、突然男性の大声が聞こえ、左側前方の路地から男が勢いよく飛び出し倒れ、地面に転がる。
(えっ、何?)
明奈は驚きその場に止まる。するとまた、同じ所からもう1人男が飛び出して来て、地面に倒れた。男達は腹や腕を押さえ痛そうにしながら、ゆっくり起き上がる。2人共顔は殴られたように赤く腫れ、口の端から血が流れていた。
路地からスーツ姿の男性が現れ、拳をもう片方の手で握りながら地面に座っている男達をニラむ。
(あ、あれは…)
「まだやんのか? こらぁ! あぁん?」
スーツの男性がすごみながら男達に近づいて行くと、男達は慌てて立ち上がり言う。
「お、覚えてろよ!」
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