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ヨドは村で生まれ、一度も獣を見たことがなかった。
いつかヨドも一人前になって狩りをするから、山に住む獣を見てみたかったのだ。
両親はいきなりヨドを山に連れて行くことはせず、まずは狩ってた獣を持ち帰って見せてくれると言った。ヨドは言いつけ通り村で待っていたが、いつまで経っても両親は戻って来なかった。
何回朝を迎えても姿を見せない両親を待つうち、ヨドは力を失い、山が見えるその場所から動かなくなった。周囲も最初こそ哀れんでいたが、やがてヨドを気味悪がり、しまいには陰口を叩くようなった。
「動かなくて済むなら、我々もそうしたい」
やがてそれすらもなくなり、ヨドは空気のように扱われるようになった。
それは気楽ではあったが、心にぽっかりと空いた孤独の穴はどう過ごしても埋まらず、しだいに大きくなり、いつか飲み込まれそうで恐ろしかった。
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