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2,植え付け
幸乃の仕事は水曜と日曜が休みなので、5月の中旬の水曜日にさつま芋の苗の植え付けをすることにした。
あらかじめホームセンターで購入した苗を袋に入れて、幸乃はピクニックに行くような気分で畑に向かった。
五月晴れの爽やかな天気が、幸乃の気分をさらに浮き立たせた。
植え付けの時期だが、平日なので20区画ある畑には2人くらいしかいなかった。
幸乃が来たのを見て、秋山が畑にいた人から離れて向かってきた。
スコップなどの農具は倉庫にあるのを自由に使っていいと言われていたので、幸乃はさっそくスコップを手に自分の区画に立った。
「畝を作って穴を掘って苗を寝かせるだけ、いたって簡単です」
秋山がこともなげに言った。
確かに幸乃は小学生の時、朝顔やミニヒマワリを栽培しただけで、切り花や鉢植えぐらいは買ったことがあるが、園芸初心者に間違いなかった。
秋山にもそう伝えてあるから、初心者扱いは当然だった。
虫が嫌いなので土いじりも避けていたが、幸乃は夢のためにそんな苦手なハードルを越えようとしていた。
秋山に手伝ってもらって畝を作り、ビニール袋から苗を出して穴に寝かせた。
さつま芋の苗を初めて見た幸乃は、青菜のようでさつま芋と結びつかないと思った。
中南米原産のさつま芋は暑さと乾燥に強く、逆に言えば寒さと湿気に弱い。だから畝を作って水はけを良くさえすれば、後は放っておいても育つ。
肥料は最小限にとどめないと、ツルが伸びすぎて地中の芋が良く育たなくなる。
「さつま芋は、畑で作物を育てるのが初めての人に最適なんですよ」
そう言って秋山はいつもの「へへへ」という卑屈な笑い方をした。
さつま芋の栽培について幸乃は予習をしたが、さつま芋は元々手がかからない上、ここは魔法の畑なので余計なことをしなくても勝手に育つと、秋山は言い切った。
魔法の畑だけあって日当たりも風通しもよく、本当に後は自然の恵みに任せれば大丈夫という気がした。
苗の植え付けが終了すると、秋山は「それじゃ」と断って他の利用者の方へ行った。
心強くもありうっとうしくもある秋山がいなくなると、幸乃は深呼吸をして、魔法の畑に自然界から与えられる恩恵を吸い込んだ。
それは、より高度のものへ、レベルの高いものへと、すべてを変化させる錬金術だった。
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