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第8話 対峙
「何かしら」
「なぜ、陛下は御自ら学ぼうとされるのです? 学を修めずとも、政は我々官吏が滞りなく行いますゆえ、心配には及びませぬ。その御年で国を背負おうとする覚悟は立派でございますが、些か兄君のご意志やご期待に縛られ過ぎてはいまいかと」
表面上は白琳を案じている口振りだったが、隠そうともしない梟俊の威迫が牽制という真意を物語っていた。
本来なら、今頃彼が仕えているのは白璙だったはずだ。梟俊だけでなく、官吏たちのほとんどが聡明で人望ある彼が王であればと望んでいることだろう。無学で母親譲りの美貌だけが取り柄の女王など、彼らにとっては目の上のたんこぶでしかない。
特に先王の代から丞相を務め、かつ政を放任していた銀桀に代わって国を動かしてきた能吏の梟俊にとっては、尚更白琳をすぐには信頼できないだろう。それゆえに彼は自分が勝手な行動をしないよう、自身の管理下におくために目を光らせているのだと思う。
――でも、いつまでも侮られているようではいけない。
せめて、彼らがついていきたいと思ってくれる君主にならなければ。
老獪な丞相の鋭い眼光に対し、白琳は静かな――それでいて意志の強い眼差しをもって答える。
「確かに、私はお兄様の意志を受け継いで女王となりました。でも、その想いや期待は私を縛るものではありません」
むしろ、私が進むべき道を照らし出してくれる光そのもの。
「光……」
神妙に呟く梟俊に、白琳は「ええ」と首肯する。
「何も今回だけじゃない。お兄様はいつも私に手を差し伸べ、生きる道筋を示してくれました。だから、今度は私が民にとっての〈光〉でありたい。それに――」
自国のことを知ろうともせず、ただ玉座に座って官吏たちが必死に働く姿を傍観するだけの王に、何の意味があるというのでしょうか。
梟俊は僅かに目を瞠った。だが、すぐに険ある面持ちに戻って傾聴に徹する。
「国の長となった以上、全てをあなたたち官吏にお任せするつもりはありません。かといって、独裁したいわけでもない。私はただ、梟俊たち官吏全員と力を合わせてこの国を平和へと導いていきたいだけです」
「そのために勤勉なさっていると?」
「ええ。恥ずかしながら、今の私にはあなたたちと対等に議論し合える知識を持ち合わせていないから……」
知識が無ければ、当然国と民を守っていくことなど出来やしないでしょう。
まだ稚い女王の揺るぎない意志に、梟俊は「左様ですか」とそっと目を伏せて部屋を退出した。
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