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三条大橋の付近の旅籠
「で、今日皆に集まってもらったのは他でもない、我が同士古高俊太郎に付いてだ。」
威厳ある宮部鼎蔵の低い声がここ、旅籠「池田屋」の二階の奥部屋で響いた。
緊迫した雰囲気の中、一際異なる雰囲気の男がいる。
彼は上座に鎮座する宮部の隣で腕を組み、柱に凭れ掛かかっていた。
長州藩士吉田稔麿である。
彼は安政の大獄で処された吉田松陰を師事し、松蔭の私塾、松下村塾の四天王と呼ばれた男で奇才と称されている。
今日では大物攘夷志士として佐幕派、尊攘派問わず名を響かせていた。
「古高は我が同士!!今すぐにでも壬生浪へ襲撃をかけ、古鷹を奪還するに外無し!!」
一人が高ぶる感情の中声を張り上げる。すると、
「いや、相手は手慣れた刺客集団!!いくら我々が押しかけようと無理があろう!それに古高は今頃土方の拷問中だ!!策もあちらの手に渡っていてもおかしく無かろう!!」
どんどん議論は白熱していく。
この場の攘夷派の殆どが学のある議論好きだった。
それが致命的となったと言っても過言ではない。
そんな彼らを尻目に宮部は吉田に問う。
「小五郎はまだか。」
「桂さん?そういえば来ていませんね。島原で羽でも伸ばしているのでは。」
半ば呆れたように冷たい声で言い放った。
彼がいれば・・・、などと脳内で考えていた。
桂小五郎。
彼も長州藩士だ。そして何よりも穏便派である。
そしていらない情報だが女好きでもある。
だがそんな彼でも基本は真面目である。遅れたとは思えない。
「そうか。いや、良くはないが、捕まっていたら洒落にならんぞ。」
「そこは安心できましょう。雑草並の生命力ですし。」
うっすら口角を上げて笑った。
どこか彼の笑みに黒いものを感じやや青ざめながら宮部は酒を口にした。
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