結びても

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結びても

僕は、どんどん向かってくる壬生浪を斬り捨てた。 血腥い、むせ返りそうな匂いは返って僕を妙に興奮させた。 「稔麿!!頼んだぞ!!」 松助の腹の立つ言葉に答える。 「松助のくせに指図?安心しな、そう殺られる僕じゃないし。」 池田屋を出て、毛利屋敷へ走った。 門番を押しのけ、真っ直ぐに乃美さんの部屋へ駆け込む。 「吉田!!声をかけてから入れ!!」 「この姿の僕に言う言葉ですか?」 血まみれの自分の体を指さした。 思い切りにらみながら姿勢を直し、続けた。 「先程の会合へ新選組が襲撃、既に同士が数人やられています。これから一橋、桑名、会津も来る模様です。屋敷から応援を。」 「屋敷からは応援はやらん。」 即答。 仲間がやられているのにも関わらずこの老耄が。 だがここで手を出せばまずい。杉山に頼まれたのだ。 済まして顔でこちらを見つめる乃美さんに食い下がった。 「なぜ!!」 「ならんと言っている!!吉田も、屋敷からは出ないように。」 聞いて失望した。 もういい。 「もういいです。乃美さんはそうやって同士を見捨てればいい。一回失くした者の大きさを知ればいい。」 障子をパタンと閉めようとしたときにかすかに聞こえた。 「まだ長州に必要なんだ。屋敷から出るなよ。これは居留守役命令だ。」 聞こえなかったふりをしながらも横目で腹立つ上司を見た。 下を向いて心なしか震えていた。 自分の部屋へ走った。紙を一枚取り出し、筆で書いた。 〈結びても 又結びても 黒髪の         乱れ染にし 世を如何にせん〉 僕の辞世の句か・・・。 玄瑞のように情緒とか風情とかそういうのはうまくない。僕は文化人じゃないからね。あくまで武闘派だ。 誰もいないことを確認して、槍を持って藩邸を飛び出した。
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