お祭り

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 今日は4年ぶりの龍神祭だ。地元に住む渡は、とても喜んでいる。毎年秋に行われるこの行事は、地元以外からも多くの人が訪れ、とても賑わう。地元の人もそれを楽しみにしていて、これをやらないと秋を感じないと言う人も多いらしい。  だが、2019年に中国の武漢で発生した新型コロナウィルスが翌年から日本でも蔓延し始め、日本各地のお祭りは中止を余儀なくされた。龍神祭りも新型コロナウィルスの影響で中止になった。それに伴い、2020年に行われる予定だった東京五輪は来年に延期になった。結局、翌年2021年に行われたものの、無観客や関係者のみの観戦で、とてもさみしい大会となった。日本代表が多くのメダルを獲得したことだけがせめてまでのいい所だったようだ。だが、2021年も2022年も多くのお祭りは中止、2022年に開催された祭りもあるが、そのほとんどは入場制限があったという。龍神祭については2021年も2022年も中止だった。人々はいつ終わるのかわからないコロナ禍の中で、孤独に終わりの時を待っていた。だけど、人々は希望を捨てなかった。必ず新型コロナウィルスは収まり、再び龍神祭が行われるんだ。そして今日、その願いはかない、龍神祭が行われる。 「いよいよ今日はお祭りだね」  渡は嬉しそうだ。やっと元の日常が戻ってきた。やっと龍神祭が行われるんだ。 「嬉しいね」  渡の母も楽しみにしていた。渡は毎年、神輿を担いでいる。神輿を担ぐ姿を見るのが楽しみだ。 「そうだよ。4年ぶりにできるってのが嬉しいよ。でしょ?」 「うん。コロナ禍で大変だったもん」 「だよね」  2人はコロナ禍の日々を思い出した。みんなと遊びたいのに、外に出たいのに、居酒屋に行きたいのに。何もかも新型コロナウィルスのために行く事ができない。コロナ禍前はいつもの日常だったのに。それができなくなると、この世界はどうなってしまうんだろう。元の生活が戻るのはいつなんだろう。孤独と不安の中だった。だけど、新型コロナウィルスが収まり、そして再び元の生活に戻りつつある。 「やりたかったよね」 「うん。やっと元の生活が戻って来たってよかった」  渡は法被に着替えた。これから神社に向かうようだ。 「行ってきまーす」 「行ってらっしゃい」  渡は神社に向かった。もうすぐ始まる。そう思うと、気持ちがワクワクする。  それから1時間後、龍神祭が始まった。沿道には多くの人が来ている。中には屋台の軽食を食べている人もいる。こんな混雑を見たのは、久しぶりだ。何もかもが懐かしい。この風景が再び戻ってくるのを待っていた。コロナ禍を耐えて、ようやく元の日常に戻った。これからが新しいスタートラインだ。  それからしばらくすると、渡たちが持っている神輿がやって来た。神輿の上には人がいて、踊っている。こんな光景だった。実に4年ぶりだ。やっぱり祭りはいい物だ。誰もがそう感じている。 「来た来た!」 「わっしょい! わっしょい!」  この掛け声だ。忘れかけていた祭りの活気だ。見たかったのはこの光景だ。誰もが喜んでいる。神輿の人々も喜んでいるだろう。 「やっぱりこれがないと秋って感じがしないよね」 「またできてよかったよ」 「ほんとほんと」  人々は4年ぶりの龍神祭を楽しんでいる。やっぱりこれがないと秋を感じない。  そんな中、渡の幼馴染が来ていた。4年ぶりに行われるという事で、ここにやって来たという。大学を卒業してから、仕事に就きながらみこしを担いでいるのを知っている。今日は来ているんだろうか?  と、そのうちの1人の花枝(はなえ)が渡を見つけた。やはり神輿を担いでいる。 「あれ? 渡くん?」 「そうみたいだね」  横にいる周平(しゅうへい)もそれに気づいた。コロナ禍になってから、全く会っていない。久しぶりに会いたいな。 「久しぶりに会ったね」 「うん。コロナ禍でなかなか会えなかったもん」  その横にいる晴斗(はると)もコロナ禍以後、全く会っていない。それどころか、居酒屋で飲む事も、会社の飲み会もない。今年はやってほしいな。 「こうして祭りで会えて、本当に嬉しいよ」 「うん」  3人は渡の事が気になった。コロナ禍になって以降、何をしていたんだろう。その間、何をして過ごしていたんだろう。とても気になる。聞きたいな。 「元気にしてたかな?」 「祭りが終わったら、みんなで会ってみようよ」  突然、晴斗が提案した。ここの近くの居酒屋で一緒に飲んで、コロナ禍出の日々の話で盛り上がろうよ。 「そうだね」 「さんせーい!」  3人は、祭りが終わったら渡に声をかけて、居酒屋に誘おうかな?  龍神祭が終わり、渡は帰ろうとしている。今日は久しぶりに疲れた。だけど、気持ちのいい汗だ。4年ぶりに神輿を担げたからだ。みんな見てくれただろうか? これが秋の風物詩なんだ。 「お疲れさん」 「あー、4年ぶりの祭りで疲れた」  渡は腕を回した。神輿を担いだ製で、腕ががくがくだ。 「でしょ?」 「うん」  渡は神社の入り口に立った。そろそろ帰るようだ。 「じゃあね、バイバイ」 「バイバイ」  渡は神社を後にした。今日はもう疲れた。家に帰って、ゆっくり休もう。 「はぁ・・・、疲れたな・・・」 「渡くーん!」  花枝の声だ。渡はすぐに反応し、振り向いた。まさかここで会えるとは。 「あっ、花枝ちゃん! 周平くんや晴斗くんも!」 「久しぶり!」  よく見ると、周平や晴斗もいる。みんな、祭りに来ていたのかな? 「久しぶりに会えたんで、飲みたいなって思って」 「いいよ!」  渡は笑みを浮かべた。久しぶりの飲み会だ。これから帰る予定だったけど、今日はせっかくの祭りの跡だ。後夜祭のように、今夜は盛り上がろう。  4人は家の近くの居酒屋にやって来た。居酒屋には多くの人が来ている。その多くが祭りの帰りだろう。みんな、祭りの話で盛り上がっている。まるで、この居酒屋全体で後夜祭を開いているかのようだ。 「いらっしゃいませ!」 「4名様で!」  渡は店員に、4本の指で4名様だと示した。 「こちらの席へどうぞ」  4人は店員に案内されて、テーブル席に向かった。向かいには4人の男がいる。彼らも祭りの話で盛り上がっているんだろうか?  と、そこに別の店員がやって来た。注文を聞くようだ。 「ご来店ありがとうございます、お飲み物はどうしますか?」 「生中で!」 「俺も!」 「僕も!」 「私も!」 「生中4本ですね、かしこまりました」  みんな、生中を注文した。最初はやはり生中からだろう。  しばらくすると、4本の生中をもって店員がやって来た。 「お待たせしました、生中です」  店員は4人の前に生中を並べた。これから久々に飲める。4人で乾杯ができる。これもかつての日常だ。 「今日はお疲れ様でしたー! カンパーイ!」 「カンパーイ!」  4人はみんなで乾杯し、生中を飲んだ。やっぱみんなで飲むのはいいもんだ。家飲みよりずっと楽しい。 「みんなで飲んだの、久しぶりだね」 「うん」  4人はみんな、笑みを浮かべている。再び一緒に飲めて、嬉しいようだ。 「またこんな日が来て、嬉しいよ」 「ほんとほんと」  晴斗はサラリーマンをしているが、テレワークでなかなか来れない人が多くて、寂しく感じていたという。そして、年末の恒例行事だった飲み会もコロナ禍で中止。そんな時は1人で忘年会を開いていたそうだ。 「久々に会えて、嬉しいよ」 「でしょ?」  みんな、コロナ禍で会えなかった。だけど、信じていれば、再び会えた。そして、ともに喜びを分かち合えた。 「コロナ禍で会えなくて、大変だったよ」 「やっと元の生活が戻ってきて、本当に良かったよ」 「うん」  花枝は小学校の教員をしている。コロナ禍になった時は大変だった。なかなか小学校に来れずに、来ても教室はフェイスシールドだらけで、机の感覚が広かったり、いつもと違う雰囲気に引いてしまった。だけど、徐々に元の小学校の風景に戻ってきた。 「もう元の生活は戻らないんじゃないかって思ったよ」 「でも、希望を捨てなかったらきっと元の生活は戻るもんだな」 「うん」  周平は町工場で働いている。町工場はあまりコロナ禍の影響で仕事が減って、従業員も減った。だが、やっと元の仕事量に戻ってきた。やっと元の生活が戻って来たと実感している。 「こうして再び飲めた喜びを、今日は分かち合おうじゃないか!」 「そうだそうだ!」  そこに店員がやって来た。注文した焼き鳥が届いたようだ。 「お待たせしました、ねぎま塩とつくねタレ、かわ塩、レバー塩です」 「どうも」  4人は注文した焼き鳥をほおばりながら、楽しく過ごしている。 「やっぱみんなで飲む酒はおいしいね!」 「確かに」  これから日本は、そして世界は元に戻っていく。そして、観光客は戻ってくるだろう。日本も、世界もこれからだ。 「日本も世界も、これから元の姿に戻っていくんだね」 「そうであってほしいね」  やっと戻って来た日常。それが何よりのごちそうだ。4人ともそう思っていた。
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