1「再会まで、あと少し」

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 病院の職員は医者や看護師といった誰もが知る華やかな職業のほか、実に様々な職種が存在する。その中でも、看護助手という職業は学歴や専門職としての特別な技術は必要なく、一般的に憧れられたりするような職業とは言いがたい。一年前仕事を探していた時、学歴も資格もない莉里は雇ってもらえるならどこでもいいと職業安定所に相談にいった。そしてこの仕事を紹介されたのだ。  薄給、しかも激務のためこの仕事を長く続ける人は少なく、たいていは一年未満で辞めてしまう。なので、他の職業ならまだ新人の部類に入るはずの莉里は、入ってから半年ですでにベテラン扱いだ。  そんな彼女は、ある日突然看護部長直々に呼び出され、特別な仕事を任された。  さぞ名誉ある重大な仕事だろうと思うかもしれないが、まったく違う。  単に、ユニフォームなどの洗濯物を業者に引き渡す際、異物が混入していないか事前にチェックする役割を与えられただけである。  なんでも着用していたユニフォームのポケットに物を入れたまま洗濯に出してしまうスタッフが多く、度々委託先の洗濯業者から病院側が注意を受けていた。ハンカチやボールペンなどはまだ許容範囲として、以前、患者情報の書かれたメモ帳や注射器が入っていたことがあり、これらは病院全体で大問題となったらしい。  着用していた当人がポケットに何も入っていない状態でランドリーバスケットに入れることが大前提なのだが、引き渡す際に誰かが確認する作業を徹底していれば、異物が混入する事故は未然に防げるはずである。  その業務を看護師に依頼したのだが、これ以上業務負担を強いられることに彼女たちは反発した。ポケットに物を入れたまま洗濯に出す当人が悪い。直接注意しろと不平不満を募らせ逆に抗議されたらしい。  残念ながら「注射器を入れたのは自分だ」などと名乗り出てくる潔い職員はいない。やはり、回収直前に誰かがチェックをしなければ今度はもっと大きな事故に繋がるかもしれない。そのため、その白羽の矢は莉里に向けられた。  その仕事を任されたのが2カ月前。  特別手当が出るわけでもないし、人の着たユニフォームを一着一着取り出してはポケットを漁るようなマネをすることに抵抗がないわけではないが、仕方がないと黙々作業をこなしていた。  しかし無心にこなしていただけのこの仕事をきっかけに、莉里の運命は大きく変わる。  それは、初恋の相手との思いがけぬ再会だった――
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