13「別れを選んだ後悔」

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13「別れを選んだ後悔」

 翌朝。莉里は子ども達の登校準備を手伝った。なかなか着替えをしない子や、ペンケースがないと騒いでいる子、この服じゃ嫌だとだだをこねる子など、かなり慌ただしかった。  それでもなんとか全員の準備が済み、玄関に集まる。あとから侑李も姿を見せた。彼も子ども達と一緒に出勤するようだ。 「「いってきまーす!」」  子ども達は元気に挨拶をし、学校へ向かう。侑李も子どもたちに手を引かれ玄関から出て行く。彼が何度も後ろを振り返りながら手を振ってくれたので、莉里も手を振り見送る。侑李は途中で四葉に「侑李、未練がましい!」とたしなめられていた。  その後、保育士から声をかけられ、残った杏樹たち幼児組とともに散歩に出かけた。新鮮な空気や暖かな日光が心地よい。数日ぶりに外に出て、緑に囲まれた空気のおいしさに改めて気づく。  もう、体は回復したと言ってよいだろう。となると、ここにいる理由はなくなる。  いつまでもここで周りの厚意に甘えているわけにはいかない。仕事だってきっと自分がいない分、周りに負担をかけてしまっているはずだ。  侑李が何と言ってくるかはわからないが、とりあえず彼の母親に相談してみよう。そう思い、莉里は散歩から戻った後、侑李の母親のもとへと向かう。 「莉里ちゃん、ちょうどよかった。パンケーキ焼いたから食べて」  キッチンでは侑李の母親がフライパンからお皿へパンケーキを移している最中だった。  午後のおやつの時間に子供たちに提供する予定なのだが、試作品として何枚か作っているらしい。生地の上にチョコソースで子ども受けしそうなイラストを描いていく。  完成したパンケーキとカモミールティーをトレイに乗せ、それを持って事務所に案内してくれた。  莉里はまずは親切にしてもらったお礼を述べ、それから自分の具合がすっかり良くなったこと、ここを出て行くつもりであるが、侑李にはまだ相談していないことを伝える。 「莉里ちゃんの具合がよくなったことは嬉しい。けど、そんなに急いでここを出て行かなくてもいいんじゃない? 子ども達も莉里ちゃんになついてるし」  だからこそ、だ。  これ以上、子ども達に情が湧いて離れがたくなる前に、以前の生活に戻らなければならない。  もともと莉里は一人だった。その生活に戻るだけ。 「私は莉里ちゃんが決めた意思を尊重する。でも、今夜侑李にも相談してね。まあ、侑李はここでなくても莉里ちゃんと会えるから反対はしないと思うけど」  たしかに、侑李と会えなくなるわけではない。だが……。 「私、まだ少し怖いんです」  莉里はくすぶっている想いを侑李の母親に打ち明けた。 「侑李君は、本当に私なんかでいいのかなって。侑李君はお医者さんだし、社会的地位のある人です。それに比べて私は何のとりえもない、ただ子どもの頃に運よく侑李君と親しくなれただけの人間なのに」  自分は侑李のことが好きだ。きっと彼以上に好きになれる相手など現れない。  けれど、どうしても侑李と自分の身分の差というものを乗り越えられる自信がない。  いつか、別の女性を選ぶべきだったと後悔されてしまうのが怖い。
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