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14「新たな一歩」
その日の夜、莉里は仕事から戻ってきた侑李を出迎え、明日ここを出て行くことを伝えた。
「体は大丈夫なの?」
「うん。昼間、飯田先生に診てもらったら、仕事に復帰してもいいって言ってもらえた」
「そっか」
侑李は特に引き止める素振りもなく、素直に受け入れてくれた。
「侑李」
莉里は侑李の背中にそっと抱き着く。
「ここを離れても、一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ」
侑李の返答には迷いがなかった。そのことに莉里は心から安堵する。
◇
翌日は土曜日。学校も休みなので学童以上の子ども達も各々施設内で自由に過ごしているようだ。
莉里は朝食を済ませた後、借りていた自室を掃除し帰り支度を始めた。たった数日なのにとても名残惜しく感じられる。
子ども達に何と言って別れを告げようか。莉里は昨夜からそのことを考えていた。かたくるしい挨拶など子ども達は退屈させてしまうだけだし、かといって黙って出て行くのも非情な大人だと思われてしまうかもしれない。だが、人との別れに敏感だとしたら、あえて黙って出て行くのも正解なのだろうか。
悶々と考えていた時、ノックする音がして莉里はドアを開けた。
「莉里ちゃん、デイルームへ来て!」
現れたのは四葉だった。手首をつかまれ、引っ張られる。
「どうしたの?」
「いいから。皆待ってるよ!」
一体何事だろう。やや困惑しながらも四葉について行く。
デイルームには子ども達だけでなく職員たちもいた。侑李の母や伯父の飯田もいる。
入り口の前で立ち止まっている莉里の前に侑李がやってきて、優しく莉里の手を取った。
パーテーションには折り紙で作られたチェーンが飾られ、模造紙に書かれたと思われるケーキや楽器のイラストが貼られている。
「お別れ会をしたいって、この子たちが準備してくれたんだ」
「お別れ……会?」
「うん」
侑李に促され、莉里は椅子に腰かける。
少しして、エプロンを着た女の子たちがカップケーキと紅茶をもってやってきた。
その数種類のカップケーキはそれぞれ山盛りのホイップクリームが乗っていたり、カラフルなチョコチップが散りばめられていたりとそれぞれ個性的だ。デコレーションは子ども達が行ってくれたようだ。
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