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「莉里ちゃん、私たちと遊んでくれてありがとう」
「今度はいつ来てくれる?」
「来月、僕の誕生日会に来てよ」
子どもたちが次々とやってきては言葉をかけてくれる。莉里も一人一人に言葉を返し、ギュッと抱きしめて別れを惜しんだ。
保育士のピアノの伴奏に合わせ、皆が歌を口ずさむ。それから折り紙で作られたロゼットをプレゼントされた。円の真ん中には『りりちゃんへ。だいすきだよ。』と書かれてある。
「嬉しい。ずっと大事にするね」
莉里はロゼットを両手で包み込むように抱え、微笑んだ。嬉しい気持ちがこみ上げ、泣きそうになってしまうが必死でこらえた。子ども達が笑っているのだから、泣いたりするのではなく、笑顔でいたいと思った。
「莉里ちゃん、侑李との結婚式は呼んでね」
四葉が莉里の膝の上に顔と腕を乗せ、キラキラした目をしながら言った。
結婚式、という言葉に莉里はドキっとしてしまい、言葉に詰まってしまう。
「もちろん。皆のことはちゃんと招待するよ」
そう答えたのは莉里ではなく侑李だった。驚いて莉里が侑李のほうを振り返ると、彼はすました顔をして微笑んでくる。
「私も、マー君との結婚式は侑李と莉里ちゃん呼んであげるからね」
嬉しそうに言うと、近くにいた女の子が首を大きく傾げた。
「マー君、もうここにいないよ? お家に帰っちゃったもん」
「……」
きっぱりと言われ、四葉がしゅんと項垂れてしまう。
そうか。四葉は大好きなマー君と離れ離れになってしまったのか。
それでも、いつか会えることを夢見て前向きに生きているのだろう。
莉里は四葉を抱き上げ、優しく頭を撫でてやる。そして言った。
「私と侑李も子どもの頃に出会ったけど、その後12年も離れ離れだったんだよ。それでも、こうしてまた会うことができたんだから、四葉ちゃんとマー君もきっとまた出会えるよ。大丈夫」
「うん!」
四葉はとびきりの笑顔で頷く。
「バーバイ」
突然、保育士の腕に抱かれていた杏樹が何やら言葉を発したので、周囲は一瞬驚いた表情で杏樹に注目する。
「杏樹ちゃん、しゃべった?」
「え、え!? なんて言ったの?」
「もう一回言って!」
子ども達が杏樹のもとに集まる。
杏樹は柔らかい笑みを浮かべ、右手を動かす。
「バーバイ」
今度はしっかりと言葉を発した。
「莉里ちゃんにバイバイしたのね。すごい!」
侑李の母親が感激している。
杏樹はその後何度も「バーバイ」と言っては周囲を沸かせた。
莉里がここから去ることを、こんなに小さな杏樹もわかってくれている。
「ありがとう杏樹ちゃん。また来るからね」
莉里は杏樹の小さな手を握り、そう告げた。杏樹はまた「バーバイ」と言ってくれた。
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