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◇
子ども達に見送られ青の家を出た。それから約一週間ぶりにアパートへ帰ってきた。
部屋に入り、まずはこもった空気を入れ替えるため窓を開けていく。
「荷物、いったんここへ置くよ」
付き添ってくれた侑李が衣類などの荷物が入ったバッグをリビングのソファに置く。
「ありがとう」
莉里は自室のベッドの上に脱いだままのスウェットがそのまま置いてあるのに気付き、慌ててそれを自分の腕の中に抱き込む。ずぼらな女だと侑李に思われるのは避けたい。
「ゆ、侑李! 散らかってるけど座れるスペースはあると思うから座ってて。今、お茶入れるね」
莉里はとりあえず汚れ物を洗濯機の中へ放り込み、それから手を洗ってキッチンに立つ。
と、ここで来客用のカップがないことに気づく。戸棚を開けて、使われていないカップを探すが、見当たらない。仕方ないので使用頻度が少なくきれいなカップを探す。しかし、どれも莉里が高校生の頃から使っているカップで、オシャレなカップとは程遠い。センスが悪いと思われてしまうかもしれない。
「莉里はほんとにわかりやすいよね」
背後から侑李の声がしてハッと振り返る。侑李は莉里が手にしているカップを代わりに持ち、それをいったん水切り台の上に置く。
「お茶は僕が入れるから、きみは座ってて」
「でも」
ここでは侑李がお客様だ。おもてなしするのは莉里の役目。そう思うが侑李は困ったように笑って首を振る。
「以前の生活に戻ろうと一度にあれこれする必要はない。きみは僕を頼ってくれていいんだよ」
諭され、莉里は少し考えた後、「うん」と素直に返事をする。
しばらくして二つのカップを持った侑李がリビングに来てくれた。
二人は並んでソファに腰かける。ほぼくっついていると言っていいほどに近い。
ここ数日ほぼ毎晩、侑李は一緒にいてくれた。施設にいたのでお互い節度を守ることはできたが、ここではもしかするとキス以上のことも……。
そう考えると莉里は体が熱くなり、手でパタパタと風を仰ぐ。
「もう少ししたら帰るよ」
莉里の心情を察しているはずなのだが、侑李は時計を見ながらあっさりと告げる。
泊っていってくれるかと思ったのに、やはり帰ってしまうのかと莉里は寂しくなった。
「明日、一緒に水族館に行かない?」
侑李はスマホを取り出し、何やら水族館のサイトを開いてその画面を差し出した。
「アオウミガメの赤ちゃんが生まれたらしくてさ、見に行きたいなって思ってたんだ。一緒に行ってもらえないかな」
明日は日曜日だ。侑李はもともと公休。莉里も職場復帰は週明けからで良いと言われているので明日は休みである。
侑李と外でデートができる。もちろん莉里には断る理由などない。笑顔で頷いた。
こうして、明日のデートの約束を取り付け侑李は帰って行った。
莉里は急いで寝室に戻り、衣類ケースを開けて明日着ていく服を懸命に探し始めた。
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