君の理想に化けた夢

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 それからさらに半年の時が過ぎた。 「んんっ──」  桜吹雪(ふぶき)が舞う中、今日も東京の街に朝が来る。開けた窓から聞こえてくる都会の喧騒(けんそう)。長く田舎で暮らしてきた自分には新鮮な音色だ。  だけど、医学部に進んだわけではない。 「しまった、また原稿描かずに寝てしまった……」  漫画家になる。その夢を引っさげて、勉強を辞めて上京した。赤本を捨て、原稿を広げた机でペンを握る。これこそが念願の景色だった。  そして、同じ部屋でカメラを()げているのは──。 「ちょっと大翔(ひろと)〜……締切近いんでしょ?そんなんで間に合う?」 「あぁ──おはよう咲優。大丈夫、もうすぐで完成だから」 「そう。まぁ、私も同じような感じだけどね」  ウッドクリップで留めた写真を、別の机に何枚も並べて眺めている咲優。出来栄えのチェックだろうか、その表情は真剣そのものだ。  一緒の部屋で暮らし、お互いアルバイトもしながら、出版社やコンテストに応募を続ける毎日。咲優が隣にいなければ──こんなにも自由に夢を追える日々は無かった。  化けることをやめた高校三年の秋。二人きりの夜の教室で、俺は「咲優ちゃんのことが好きだ。卒業したら一緒に上京しよう」と告白した。  正直、後先(あとさき)のことは考えていなかった。今までの自分なら絶対に取らないような行動。自分でも少し驚いた。  だけど、咲優は少し(うつむ)いた後──ニコッと微笑(ほほえ)んで、告白の返事をくれた。 「うん、一緒に夢を追おう。私も──蓬莱君のことが好き」    *  俺はペンを握り、咲優はカメラを構え、切磋琢磨しながら何気無い会話で笑い合う。そんな日々は、少なくても二人にとってすごく幸せだ。  この先どんな未来が待っているかは分からない。夢が叶う保証はもちろん無い。だけど、咲優が言っていた通り──自分が進みたい道なら、それが正解なんだと思う。  誰かの理想に化けるのではなく──自分が望む理想を、これからは自分の手で(えが)き出していこう。 「よし!今回は良い漫画が描けたぞ!」 「私も──この一枚なら誰にも負けないわ!」 -完-
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