私は犬が嫌いだった

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 柴犬だったらいいよという両親の意外な一言で、私は柴犬を一週間ホームステイさせることになった。  ブリーダーの人が直接犬を連れてくるということで、両親は朝からそわそわした様子で落ち着きがなかった。  ペットを飼いたいなんて、一度も両親の口から聞いた事がなかった。私からしたら、そんな二人の姿に驚いていた。 「お母さんって、犬好きだったんだ」  思わず漏れた本音に母は、照れたように口元を歪めて「夢だったの」と言った。 「じゃあなんで飼わなかったの? お父さんが嫌いだったとか?」 「違うわよ。菜緒が嫌いだったから」 「えっ……言ったことあったっけ?」  犬が苦手なのは確かだけれど、口に出した記憶がなかった。 「聞いた覚えはなくても、見てて分かるわよ。あなた、散歩中の犬を見ると出来るだけ端に寄ってたじゃない」  そこに一台のバンが家の前に止まる。母が「来た来た」と言って、門扉を開ける。  車の中から、三十代ぐらいの女性が下りてくる。挨拶もそこそこに、バンからキャリーを取り出して両手で抱えた。 「あら、可愛い」  キャリーの隙間から覗き込み、母が声をあげる。遅れてきた父も、どれどれと覗き込む。普段は「んー」とか「あぁ」しか言わない父にしては珍しい食いつきだった。 「今日から一週間よろしくお願いします。何かお困りのことがありましたら、いつでもご連絡をください」  犬に夢中な二人の様子にも慣れたように女性がにこやかに告げる。事前に契約書を交わし、飼育等や注意点についての説明は受けていた。  やっぱり当日になると、説明を聞くのもおろそかになりがちなのだろう。二人を見ていると納得がいく。  ブリーダーと共に家に入り、早速キャリーを開けてみる。最初は警戒していたけれど、少しずつ外に出てくる。まだ幼い姿の茶色い柴犬が、姿を現す。辺りの匂いを確かめるように鼻をすんすんと動かしていた。  おおーと両親が歓声を上げる。私だけ、なんだか複雑な気持ちだった。こんなに生き生きとした両親を見るのは初めてだからだ。それが良いことであって間違っているわけじゃない。だけど何だか、両親のそんな姿に動揺している自分がいた。
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